本腰

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   そして蓮司が大滝に病院に突っ込まれた。10月から突っ走って、許可も取らず休日出勤した。朝、ビルが開くと同時に入る。夜は遅くまで一人で残る。課長職は残業代がつかない。人件費に影響は無い。 「バカモン! 体調管理は上長の責任だ。そんな顔色で部下の前に立つな!」  不愉快な思いをして胃カメラを飲んだ。 (二度と飲まない。死んでもイヤだ!) そう思った。3日入院と言われたが初日は金曜。月曜の7時には出社した。 「河野!」 「医者の判断で退院しました。どこも悪くありません」 「疲労と栄養の偏り。外食とインスタントばかりだろう」  入り口が開く。入ってきたのは三途川と尾高。 「あら、来てたんですか? 尾高さん、早出して損したわね」  大滝が尋ねた。 「このボンクラのために早出したのか?」 「ええ。誰かさんは仕事が遅れるのを嫌うので。『俺がいないとすぐこうなる』とか難癖つけられるのは冗談じゃないですから」 「そうか」 「で? 原因分かったんですか?」  蓮司は言いたくない。口を閉ざした。だが無駄だった。 「疲労と栄養失調。このバカは10月から休んでいない。早出深夜勤務。労災だの過労死だの、面倒は困る」 「ばかねぇ……」 「三途川さん! 河野、なんで一人で。俺にも言えって」 「しょうがないわよ、気がつかなかったこっちが悪い。私、ダイエットでもしてんのかと思ってたし。部長、お気遣いなく。今後は私が課長の体調管理しますので」 「三途! お前に世話焼かれたくない!」 「お黙りなさい! 上司と部下に心配させておいて、日頃の『体第一だ』っていう台詞、聞いて呆れるわ。部長、どうぞお任せを」 「頼む。私も子どもにするようなこんな説教は御免だ」  蓮司の健康管理は三途川預かりとなった。12時10分には目の前の資料の上に弁当がドン! と置かれる。「おい!」と文句を言うと「シャットダウンしましょうか?」と聞かれる。3時には4階に追いやられた。残業は「課長帰るまで私も仕事しますから」と脅される。休日には三途川も出勤してきた。  とうとう音を上げた。 「降参だ! しばらく休日は休む。早出をやめて残業は8時まで。飯は作って食う」 「やっとまともになりましたね。なんなら夕食はウチに来ますか?」 「冗談だろ! ヤクザの巣窟に誰が行くか」 「ご挨拶ね。きっと将来行ってよかったって思うようになりますよ」 「悪いな、そんな日は永久に来ない」  結構三途川と遠慮なくものを言い合うのは楽しかった。   
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