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飛んでる新人
3月半ば。R&Dはなかなかの成績を上げていた。新規の顧客開発をどんどん増やし、あの大ポカで離れた元顧客を2件取り戻した。それは大滝の立場をかなり有利にしている。少なくとも開発部はR&Dの存在に強い危機感を抱いていた。
オフィスの設備は改善され、新しいデスク、椅子、プリンターなどが入って来る。蓮司は大滝に一礼をし、大滝はニヤッと笑って「よくやった」と肩を叩いてきた。
そしてR&Dも新人を配置されることになったが……
「なんですか、この新人」
「面白い人材だろう?」
「しかし……」
「開発では要らないと言ったんだ」
「そりゃそうでしょう!」
「だがその男を押しているのは人事の安田課長だ」
「安田課長? あの『気難しい』って有名な?」
「どうする?」
「……分かりました。ウチでもらいます。宇野哲平…… ホントに入社面接先を間違えて合格になったんですか」
「後は本人を直に見るんだな」
3月20日、朝。4階でコーヒーを買って階段を上がっていた。下から足音が聞こえる。どう聞いても駆け上がってくる音。脇に避けて男が見えるのを待つ。書類を手に持った若い男だ。
「走るな!」
「はい、すみませんっ」
返事は良かったが足は全くスピードを落とさない。もう一度上に怒鳴った。
「走るな!」
「はい、すみませんっ!」
そのまま駆けていくのを聞きながら首を振った。
(ああいうのは困る)
そしてその『ああいうの』が来た。
(『ああいうの』が宇野哲平だったか……)
様子を見ていれば悪いヤツじゃない。むしろいい。だが『見たことのない生き物』。
元気だ。何を言われても気にしない。心は広く大きい。だが自我が有るようで無い。ほいほい何でも引き受けて、イヤな顔をすることも、出来ずに放りだすことも無い。要領がいい。人の面倒見もいいし誰の懐にも入り込み、あっと言う間に心を開かせてしまう……
だが。
(こいつはなんだ? 三途にもいいように使われて私用も業務もお前の中に垣根は無いのか?)
この9ヶ月、厄介な者ばかりを扱ってきた。
(これは俺へのご褒美か?)
その内ゾッとしてきた。
(あいつが育ったら……)
「使い勝手が良くて、いい新人が来ましたね」
「あいつは使い勝手がいいとかそういうんじゃないな」
「そうですか?」
「下手をするとお前たち、早い段階で仕事を食われるぞ。覚悟しておくんだな」
相手は目を見開いた。
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