飛んでる新人

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   ゴールデンウィークが明けた。三途川はまだ山から戻らない。毎年そうなのだと聞いた。  哲平と一緒に入社した広岡から『体調が悪くて』という連絡が入った。 「気にしなくていい。ゆっくり体を休ませて出て来い」  この広岡、同期の哲平とは真逆だ。穏やかで真摯で真面目。パニック症候群を抱えている。だからこそ自分のペースを保とうとするのだろう。大事に育てたいと思う。  この時期新人が休むのはよくあることだ。入社して緊張の連続。そこに連休。張り詰めていた糸がプツンと切れる。蓮司は別として、誰もが体験していることだ。  蓮司はその中に哲平を入れていなかった。入れ忘れていた。具合が悪いという連絡が入って(あいつも新人だったか?)と思い出す。 (気が張り詰めて体調を崩す? あいつが?) 電話を受けた池沢から替わる。 「河野だ。どうした、体調悪いか」 『すみません! 風邪なんか引いたこと無いのにこんなことになってしまって!』 「おい、怒鳴るな! 元気だな、お前」 『いや、その』 「無駄に体力使うな。しっかり休め。出勤したら精一杯働けばいい」 『はい!』 「だから怒鳴るなと言ったろう」 『はい! 気をつけます』 「切る』 (あいつは具合悪くなるのも普通に具合悪くなれないのか?)  次の日も休んだ。熱が下がらないのだという。 (ということはアレじゃないってことか。風邪引かないってわけじゃないし)  3日目。休みの連絡さえ入らない。なぜか哲平のことになると気にかかってしょうがない。 (俺もやられたか? まるであいつの中に巻き込まれているみたいだ)  蓮司は分析型だ。人を真正面からしっかり見据え、把握していく。だが、人間味の無いデータ化するわけじゃない。部下を知ることが業務を進めていくうえで何より必要なことだとこの課長職になって学んだ。攻撃型の自分だが、守る側でもあるのだ。支えても守ってもくれない上司に誰がついてきてくれるだろう。  
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