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遠い……
エストニアから戻って落ち着くと、すぐにジェロームの家に行くことになった。
「かなり練習しましたからね、負けませんよ!」
「多分俺の勝ちだね!」
早速座ってゲームの用意を待つ。
「あれ? 前のと違う……」
「うん、これ、オンラインだよ。花さんが『いい加減オンラインやれ!』って言うから買い替えたんだ」
「……汚い、先輩」
「なにが? ……怒ってる?」
「怒ってます。エストニアでは前のヤツ、練習してました」
ジェロ―ムが笑い出した。
「だってしょうがないよ! 今時はみんなオンラインになってるんだもん」
「しょうがないって……」
あの長時間の練習時間をどうしてくれるんだ! と真剣に言いたくなってくる。
「取り敢えずやろうよ。そんなに変わんないよ、結局はテトリスだから」
「そりゃそうですけど」
不貞腐れながらやったテトリスは、当然勝てるわけもなく。すでに幾つもの称号と段位を持っているジェローム。
「先輩! 俺、今度はこれを修行します。だからちゃんと対戦するまで買い替えないでください!」
「う! 分かったよ…… でも早く上手くなってね。俺だって新しいのが出たらそっちやりたくなっちゃうし」
半分(理不尽だ!)と思いながら早速オンラインテトリスを家で練習し始めた。たまに手合わせするが、とても足元にも及ばない。
「頑張って! 俺、待ってるから」
(いつまで経っても先輩に追いつけそうにない……遠い、先輩が)
テトリスの道はまだまだ険しい、そう思う健だった。
――『石尾くんの道は険し』 完 ――
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