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プライドと変化
愕然としてミ―ティングルームから出ると女みたいにきれいな男に4階に連れて行かれた。
休憩所なのだろう。オフィスが2つは入りそうな広い中にテーブルが幾つもあり、ソファもあって数人のグループや人が座っていた。窓際やテーブルの間にはたくさんの観葉植物が並んでいる。自動販売機の数も種類も多い。
だがその男が自分のチーフの宗田花だと知ってまたモチベーションが下がった。
(こんなにちゃらけて見えるやつが? 花とか言った。名前までふざけている。いったいどうなってるんだ、この職場は。自分には不釣り合いだ、そうだ、自分を生かせる職場じゃない)
納得がいったような気がした。自分じゃない、選んだ職場が失敗だった。
面接は6社も受かった。その中でシミュレーションしてここに来た、必要とされるに決まっている、1年も経てば自分がいなければやっていけなくなる会社になると。家とは違う、『石尾健』という男を必要とする会社になるはずだと。
家に帰ってすぐに求人のネット検索。
(あんな企業、こっちからお断りだ!)
けれどどれを見てもパッとしない。自分の中である程度の目標があって、それと合致したのがあの会社だった……
もんもんと考えて、負けん気が勝った。
(ここで尻尾を巻いたらまた家でバカにされる)
それは一番恐れていることだった。気に入らないなら気に入るように自分が変えるだけだ。自信とプライドが留まる決意をさせた。
だが…… たくさんのものが健を変えて行った。
先輩の広岡の言葉。
『同じ男として恥ずかしいと思わないか? お前は誰かの揚げ足取りでのし上がるつもりか。ジェイは自力で力をつけながら這い上がってきたし、これからもそうだろう。お前たちの間には大きな隔たりが出来るな。誰もそれに気づかないかもしれない。けど、お前は自分の在り方をずっと見ていくわけだ。このままで恥じることは無いんだな?』
ジェロームの仕事を真剣に見るようになった。
(仕事と仕事の間に空きが無い。終わるころには次のことを考えているんだ。どれをやっていてもペースが変わらない。そして手抜きが無くて正確だ)
徐々にジェロームという人が見えてくる。第一印象とはまるで違う。周囲に甘ったれている人だと思った。楽させてもらっている新人。自分の一つ上なのになんの貫禄も無い……
(チクショウ! 負けたくない!!)
健の目標はいつの間にかジェロームという存在を超えることになっていた。
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