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この人を守りたい
そしてとうとうジェロームの事件そのものに接触した。
続けて起きているジェロームへの犯行。大きなケガなどには発展していないが、それも時間の問題かもしれない。
相手の目的はジェロームへの嫌がらせ。例え刑務所に入っても安心なんかさせるもんかという逆恨み。一人での外出をさせないようみんながジェイに心を砕く。
そんな中でジェロームが花チーフのミーティング中に外に出てしまった。気がついた健は、まるでふらふらと散歩を楽しんでいるようなジェロームの後ろ姿を追った。
一人の男に気づいた。オフィス街なのにフード付きの薄い上着とジーンズ。ジェロームと等間隔で後ろをつけているように見える。
(イヤな感じがする)
健はちょっと足を速めた。ジェロームから離れるつもりはない、いざとなれば自分が……そう思い、ついていく。ジェロームが向かう方向が気がかりだった。
(このビルの先を曲がったら人があまりいないよ、先輩!)
携帯で尾高に連絡を取った。ジェロームはその男を捕まえるつもりで誘い込んでいるのだ。尾高はすぐに対応してくれた。
(応援が来るまでは俺が先輩を守らなくちゃ!)
尚もジェロームが歩く、人の少ない所へと。もう目的は間違いない、自分を囮にしている。
二人が角を曲がってそれをチラッと覗くと互いに向き合って喋っていた。
(声がよく聞こえない)
だが相手がジェロームに殴りかかろうとしているのを見て、叫びながら走った。
「先輩!!!!」
その声で隙が出来た相手の腕をジェロームが掴んで振り回した。健は倒れかけた男に飛びついて上から押さえ込んだ。
「石尾くん?」
突然現れた健の姿にジェロームは呆然としていた。
「危ないじゃないですか!! 自分を囮にしたんですか!?」
そこにはいつものジェロームがいた。
「ごめん……また心配かけることしちゃった……」
「お願いです、1人で動かないでください! みんなに言いづらかったら俺でも翔でもいいです。言ってください、お願いです」
仕事上の尊敬。人間的に感じる羨望。そして……
(俺も…… この人を守りたい)
やっと分かった。自分の在り方も考え方も間違っていたのだと。こんな気持ちを持ったのは、ジェロームという人の心がきれいだからだ。自分は? まるで真逆だ。打算で裏打ちしてきたような実の無い自信。
(みっともなかったな、俺って)
これでやっと生まれ変われた。
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