オムライスと意地

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オムライスと意地

   エストニア行きが決まって急速にジェロームとの仲が深まって行った。そして正月に自宅に招かれた。  エプロン姿のジェロームに吹き出すところだったのをぐっと堪えて新年の挨拶をし、中に通してもらった。すぐに目についたのは直径30センチほどの大皿に盛られたオムライス! 「デカくないですか!? このオムライス!」  確かに、『食事は何が好き?』と聞かれてオムライスだと答えたのだが、これは軽く2人分はある。しかも近づいてさらに目を丸くした。ケチャップで何かを書くのは定番だが、あまりにも斬新だ。 『いしおくんの』 『おれの』 「なんですか、これ」 「だからそっちが石尾くんの。こっちは俺の。分かりやすいでしょ?」 「確かに分かりやすいですけど」  そこまで言うのが精いっぱいで、真面目な顔で解説したジェイに噴き出した。  その後ちょっと一悶着ありはしたけれどとにかくオムライスは頑張って完食。とうとうメインイベントのテトリス対決となった。  健はテトリスについてある程度下調べをしておいた。  元々は教育用ソフトウェアとして開発されたものだ。テトリスの持つ数学性、動的性、などから、ゲームプログラミングの練習題材として用いられたりする。  『テトリス』という名前は造語。7種類のピースのことを『テトロミノ』というが、それと『テニス』という言葉から出来ている。  このゲームは開発者の一人パジトノフが、水族館でヒラメの様子からヒントを得て考案された。チンパンジーにも出来るということも実証されている、学習しやすいゲームだ。  長く続けるとスピードが速くなっても能が自動化され対処していき、一種の催眠状態となり快感が引き起こされる。この快感は「テトリスハイ」と呼ばれ、ときには中毒的にもなる。 酷くなると「テトリス効果」現象が起き、夢や幻覚まで引き起こすという恐ろしい側面も持っている。  2002年からルールを統一するためのガイドラインが制定され、更新されているが、なぜかそれは一般ユーザに公開されていない。    と、無駄に知識を頭に入れてきた。だがそれについてジェロームと語り合うことは無く、ただ健の雑学が増えただけだった。  さて、ネットで動画を見てシミュレーションしてきたお蔭で最初の段階はどうということもなかった。何しろシンプルなゲームだ。ただ落ちてくるテトロミノを積み重ねて、埋まったラインが消えていく。それだけ。  ジェロームの持っているテトリスは一人用のもの。だから40ラインを消すまでのタイムを競い合う。ずっとやっているんだからジェロームのタイムは早い。一方健は徐々に落ちるペースが速まるテトロミノに対応しきれない。次に落ちる形が分かっているのにそれをうまく配置していけない。 「わあああ」  あっという間に勝敗が決まった。振り向いたジェロームが言ったのは一言。 「早いね」  40ラインまで到達していないという意味だ。それで火がついた。『負けて堪るか!』  
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