第06章 乙女ノ祈リ

2/3
前へ
/65ページ
次へ
ホームルームが終わると、ひかりは質問攻めを受けていた。 隣の席が、クラス一番のマシンガントーク女子・花田のぞみだったからだ。 「1000年に1人の天使じゃん! 芸能事務所に所属してるの?」 「いいえ、そんなことはありませんわ。田舎でしたし」 「そっかぁ、こっちは都会だからさ、遊びに行ったら、スカウトされるよ! 放課後、遊びに行こうよ! カラオケ行く? それともカフェが良い?」 「前のアカデミーでは、何て呼ばれてたの?」 「下の名前で『ひかり』です」 「じゃぁ、わたしもひかりちゃんって呼ぶね。すぐ、呼び捨てになると想うけど。ハハハ。 わたしは花田のぞみよ。あ、わたしたち、新幹線みたいだね。ひかりとのぞみ」 新幹線――。 きっと、目の前に居る『のぞみさん』は、新幹線という文字を知らないのでしょう。 文字が失われた今、百年以上経っても、()幹線の名称のまま。 そのことに違和感も持たないのだわ。 お父様、お母様、こんなことばかり考えるなんて、やっぱり私はおかしいのでしょうか? 「花田、独り占めすんなよ。独禁法違反で逮捕するぞ」 「う・る・さ・い~! ドッキン、ドッキンしてんのは、男子の方でしょ?」 独禁法――。 きっと、クラスメイト達は、独占禁止法という文字を知らないのでしょう。 独禁もどっきんもドッキンもDOKKIN'も違いを知ることはないのだわ。 お父様、お母様……。 「それにしても、本当に綺麗な黒髪ね。 黒目だってわたしよりうんと濃いわね。ねえ、触って良い?」 「髪ですか? 目ですか?」 「えー、意外! ひかりちゃん、そんな冗談言うんだね! ギャップ萌え! 大丈夫、大丈夫。目なんて触らないから。ハハハ」 そうでしたか……。 普通、『目』は触らないのですね。 お父様、お母様、私はそんな常識的な記憶まで失っているのですね。 あの本を読んでからというもの、文字を読めるようになった代わりに、記憶を失っていくんですもの。 忌まわしい本――はじまりの蛇――を読んでから。
/65ページ

最初のコメントを投稿しよう!

85人が本棚に入れています
本棚に追加