プロローグ

1/1
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

プロローグ

 人は人を区別したがっているのだと常々思う。  富豪と貧民。  天才と凡人。  それらの言葉があるということは、人間は人間の中でもさらに区別したいのだろう、分割したいのだろう、差別したいのだろう。  だけど、そんなこと、はっきり言ってどうでもいい。  富豪だったとしても妬まれるし、貧民だったとしても見下される。  天才だったとしても妬まれるし、凡人だったとしても見下れる。  富豪なら――天才なら未来は明るいとか、貧民なら――凡人なら未来はないとか聞くけど……くだらない。  くだらない。くだらない。本当にくだらない。  ナンセンスだ。センスゼロだ。センスなしだ。  人間なんて、最低な生き物――有機体だ。  それはさておき。  先日、電話がかかってきた。  かつての幼馴染かつ"天才"からの電話だ。彼とは声でさえ、久方ぶりと言ってもいいほどに、懐かしい間柄になってしまった。嘗ては幼馴染だったのに、ここ数年はまともに話もせず、接点もほぼなかった天才である彼。その彼から唐突に、凡人であるボクに、  「今度、俺と一緒に遊べる(・・・)か?」  と。  そう電話口で聞いてきた。  幼馴染、昔馴染みだからというわけではないけど、ボクはこの誘いを承諾した。  しかしながら、"普通に遊ぶ"こととわけが違うことを電話口から聞いた。  遊ぶ約束にもかかわらず、その約束は"最悪"から外れなかった。そのようなことは、次回以降はない……と、信じたい。彼は遊ぶ場所や日時、その他諸々の様々な情報をボクに話してきた。  その情報の一つに、不思議な内容というか、質問というか。そのような情報が古馴染みの彼から、電話口で伝えられた。それは、  「その場所にはよく死人が出る。それでもいいか?」  そう聞かれた。  死人が出るなんてのは、現実味をまったく帯びていない。  「死人が出る」、その言葉で最初に考えついたのは、戦争をしている場所にでも赴く、そんな安直な考え。だから、てっきり海外にでも連れていかれるのか……と思ったが、どうやらそうではないらしい。  そもそも、その場所は日本だった。さらに言えば、そこは日本の中の一つの島なのだと言う。    日本のとある島を買い取った人間がいた。その人間に天才の彼はあることを直談判するためにその島に行く……らしい。それが『遊ぶ』ということらしい。  幼馴染の彼は『最悪な人間(ホワイトデビル)』――情報通の人から、その島でよく死人が出る話を聞いたと、話した。だから彼は「その場所にはよく死人が出る」と言ったのだ。  ボクの幼馴染である彼は、確認のためにその島で死人が出ていたのかどうか調べたと話していた。けども、分からなかったと言っていた。というか、そもそもそんな島さえ検索結果はヒットしなかったと言っていた。まあ、彼――幼馴染が調べたのはネットで調べた、その程度だろう。『最悪な人間(ホワイトデビル)』の情報収集には遠く及ばない。  でもまあ、そんなことは戯言……。どうでもいいし、どうにもならない。  これらの内容なら、ボクはこの誘いを断っていただろう。これらの内容というが、その内容は島に死人がよく出るというだけで誘いを断るに値する。わざわざ死人の出る島に行く人間が、理由もなしにいるのだろうか? いや、いない。  だけど、ボクにはその島に行かなくてはいけない理由があるのだ。  その理由となってしまったのは彼のある言葉だ。  「歩美(あゆみ)はもう来るって言ってくれたよ」  そう言った。  さすがはボクの幼馴染だった天才だ。ボクの弱点を――ボクの行動を操れる方法を心得ている。もしかしたら、ボクが人生の分岐点に直面して、彼女のことを嫌いになってしまったかもしれないとか、そんなことは全然考えていないんだろう。  歩美が来るのなら、ボク(・・)は断れないも同然だ。  いやはや、どうしてこうも事件性のありそうなことに巻き込まれるのだろうか。これほどまでに事件性のあることが連続で起きてしまうのは、疑問が絶えない。今回もオカシナほど、事件に巻き込まれてしまうのだろう。  そも。  そもそも。ボクの周りの人は全員オカシイ。  死なんて『死』という言葉でしか考えていなくて、死んだら「ああ、死んだか」その程度。ボクもその一人なのが最高に最悪だ。  ミライなんて考えない幼馴染。  なんてセンス(感覚)をしているのだろう。死を怖がらないライセンスでも持っているのかって、そういう話。  ミライなんてどうでもいい。過去は大事。ミライは変わらない――変えられない。誰一人としてミライは知らないから。ミライなんて考えるだけ……無駄だ。  それともいるのか?  未来を見ることができる。そんな人間が。  天才なら未来は見える? バカバカしい。天才なんて所詮は人間。天才なんて欠陥品。天才なんて何でも屋でもないんだから、天才だとしても、その天才足る部分を除いてしまえば欠陥品が出来上がるだけ。だから、天才は未来を見ることは不可能。  天才になるために、ライセンスは必要か?  天才になるには、どの程度のどういう方向量の力を現実に反映させないといけないのか?  まあ。  そんなの考えていても平行線。  永遠と天才になれないボクには、関連も関係もない。天才は、才能があって、それを開花させた奴だけだ。才能も何もないボクには一ミクロとして関係ない。  でもまあ、天才にはなってみたいと。そう思ってしまうこともしばしば。  だけどまあ。  結局人間なんて、神にはなれない欠陥品だ。  人間なんて環境を破壊し、自己のために周囲を破壊し、破壊し、破壊し、破壊し、破壊し尽くすだけの生き物に成り下がってしまっているのだから、欠陥品という他ない。  人間なんてクソ喰らえ。  人間同士が争っている。その時点で、人間が欠陥品だというのは明白。  ボクも人間だから、当たり前のように欠陥品なんだけど。でも、その中でもかなりの欠陥品。みんなの頭の螺子(ねじ)が五本抜けているのなら、ボクは百本抜けていると言われても否定できない。  そして、歩美もボクと同じくらいの欠陥品だから、妬むことのないかけがいのない同族。  どうでもいいけど。  さて。  今回も、本当に最悪なことが起こるような気はする。  でもボクは大抵のことは流れに乗って流される人だから、素直に流されよう。  もしも流されない場面が来たときはそれまでだ。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!