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真夜中、八条 律は配達の仕事を終わらせアパートに帰る途中だった。
運転、荷物運び…次の配達先まで長い距離を走り、やっと運んだと思えば不在で再度運ぶを繰り返す毎日。体力に自信がある彼も、流石に疲れは溜まっていた。
「はぁ…明日も同じことの繰り返しか…」
溜め息が出ると、パラパラと雨が降りだした。
「最悪じゃん…!」
文句を吐けばアパートまで走り出す。
本降りになりずぶ濡れで掛ける途中、ふと、ゴミ出し場に何かが転がっていた。
「ん?何だこれ?」
思わず足を止め近寄る。良く見ると、それは足だった。
「??」
足を辿ると、ゴミの山に隠れスーツを着た男性が地面に座り込み動かなかった。
「げぇ、雨ん中寝てるのかよこの酔っぱらい…」
呆れと驚きつつ、この雨の中寝ている酔っぱらいに興味を持つ。
(こんな雨ん中寝てる酔っぱらいなんて、一体どんな顔してんだろ?)
恐る恐る顔を覗くと、傾けたその顔は小皺があり張りはやや無くなりかけた中年だった。大体40代くらいと思われるが、同世代と比べると整った顔だ。力無く閉じられた瞼、うっすら結ばれた唇、ネクタイを緩めボタンを外し僅かに露になる首元…
無意識に、自分の喉が鳴るのを感じた。
(ヤバっ…!オッサン相手に何反応してんだよ…!)
首を振りアパートに向かう為足を動かす。だが、ペースは明らかに遅い。
首元が、色の無い唇が、男の存在が律の足を止める。
(……嫌々嫌々嫌々!何で止まる俺!?
てか、死んでないよな!?)
思わず男の手に触れると氷のように冷たい。呼吸しているか雨の中止まり確認する。
(…呼吸はしてる。てかどんだけ雨で濡れたらこんな冷たくなるんだよ)
今度は生きているか心配になり、手、足、肩を揺らす。
「おいアンタ、酔っぱらって雨濡れたら風邪で済まないぞ。起きろ」
「んっ…」
男は眉間に皺を寄せるだけで起きない。短い喘ぎが耳に付く。
「っ~~……!」
妙に艶かしく聞こえる。律は自身が男に意識をしていることを自覚しながら、その手の者に襲われることを懸念した。
「……ほっとけねぇ…よな……」
男が目覚めないよう注意しながら、溜め息交じりに背負う。その身体は予想外に軽く冷たかった。
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