愛のムチ

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愛のムチ

道を歩いていると、公園のベンチで俯いて座っている友達を見かけた。 「どうしたの?」 彼女に近寄って聞くと、 「彼氏に振られた・・・」 彼女は言った。 「そうか、何で?」 「浮気されたの・・・」 「そうか、ひどい彼氏だね」 「お前の言葉に傷ついたって・・・」 「え?」 「私は彼の事を思って言ったのに・・・」 「どんなこと?」 「・・・彼が仕事をミスして、上司に辛くあたられていたらしいの。 それで彼が上司の悪口ばかり言うようになっていたから、彼に「あなたのせいでしょ。これから頑張らなきゃ」って私は言ったの。 それが嫌だったらしくて」 「・・・・・」 「浮気相手は自分のことを慰めてくれるって・・・ 確かにきつい言葉だったかもしれないけど、それは愛のムチよ。 どうして彼に振られなくちゃならないの?」 彼女は俯いて涙を流した。 私は言った。 「それはちょっと傲慢な考えじゃない?」 「え?」 彼女は顔を上げた。 「彼に嫌われたくないなら、そんなことすべきではなかったと思うよ」 「わ・・・私は彼のためを思って!」 「そうかな?本当は「「あの時、叱ってくれてありがとう」と感謝される自分」のためにそうしたんじゃないの?」 彼女は固まった。 私は話す。 「本当の愛のムチなら、嫌われてもいいという覚悟でやるべきだよ。 どんな理由でも相手を傷つけることなんだから嫌われる覚悟をするのは 当たり前。感謝されるなんて傲慢な考えだよ。 もし愛のムチで相手に嫌われたくないと思ってるならやらないほうがいい」 彼女は茫然とした顔で私を見ていたが、やがて顔を引きつらせ、キッとした 顔で私を睨みつけた。 「何でそんなひどいことをいうの!?振られた私にひどい。 あなたがそんな人だとは思わなかった!」 そう言うと彼女は走り去っていった。 「ああ、行っちゃった・・・」 私は家に帰ると、ツイッターを見た。 最新のニュースとして、芸能人の不倫がトップになっていた。 そこに来る芸能人への批判コメント。 「死ね」「生きている価値ない」「芸能人やめろ」「人間のクズ」 私は思った。 「コメントしている人たちは自分の周りの人に愛のムチができるだろうか。 自分に関係ないから強く言えるのであって、関係ある人には なかなか強く言えないんじゃいかな・・・嫌われたくないから」
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