すぐ読める後味悪い話

被害者家族

飲酒運転の事故で、ある一家の長男が死んだ。
「なぜ息子が死ななければならなかったのか、教えてください！」
テレビの中で被害者の母は叫ぶ。
遺族は犯人の厳罰化、そして多額の損害賠償を求めた。
その言葉に心動かされ、多くの国民も犯人の厳罰化を求めるようになった。

母は鏡の前で熱心に化粧をしている。
「どんな化粧をすればテレビ映りがいいだろうね～」
テレビの中で、母が泣きながら記者会見をしている。
「化粧しても泣いたら崩れちゃうんじゃない？」
私が指摘すると、
「そうだね、涙に強い化粧品を探さなきゃ」
母は笑った。

テレビでは報道されていないが、
兄はニートだった。
高校受験に失敗して以来、10年間引きこもりだった。
自分の部屋で大音量でネットゲームをしていた。
時々ゲームを買うお金欲しさに母を殴っていた。
その日も母から盗った金で
ゲームを買った帰りに、事故に遭ったのだ。

口には出さなかったものの、母も私も兄にいなくなってほしいと
思っていた。
だから兄が死んで、正直ホッとしてる。
今、テレビに映る理由は賠償金と、世間の同情が目的である。
「もしお金が入ったら、一緒に海外旅行しましょう！」
化粧が終わった母は、嬉しそうな声で私に言った。