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「おーい」
視界に入ると同時に、ケイが手を振ってくれた。
お陰で案内役がなくても、迷わなかった。
私の変装を一瞬で見抜くなんて、嬉しくもあり、ちょっと悔しくもある。
抱きつきたい衝動に駆られたが、自制しようとした。
だが、それを打ち砕いたのはケイの方だった。
「괜찮아요?(ケンチャナヨ) 良いの?」
強くハグされながら、私は少し高い耳元に向かって囁いた。
「괜찮다、괜찮다!(ケンチャンタ ケンチャンタ=大丈夫、大丈夫!)
誰も君が居るとは想っていないだろう?」
「念の為、これ」
ケイは私に紙袋を差し出した。
中身は綺麗に折りたたまれた洋服と帽子だった。
「リョウの……息子の服だ。同じ位の背丈だから」
頑張って、特に男の子っぽい服をセレクトしたくれたんだと感じた。
私は、キャリーケースを彼に預けて、性別に関係なく利用できる『多機能トイレ』に入った。
入る時は女性、出る時は男の子になっているからだ。
着替えをする為に入ったが、洗浄便座を見て、日本に来た実感が増した。
良い文化は取り入れていけば良いのに。
最近、また政治的に韓国と日本は険悪なムードになっている。
ここに居るなんて、事務所やメディア、両親に知られたら、何て言われるだろうか?
でも、私は私だ。
鏡に映る自分を見る。
「これも私か……」
深々と帽子を被り、男装した自分に呟いた。
「많이 기다렸어?(マニ キダリョッソ) お待たせ」
ケイは無言で頷いて、親指を立て、微笑んだ。
そのままキャリーケースを引いて歩く彼の隣に並んだ。
すれ違う人達の視線が気になったのは、最初だけだった。
歩を進めるたびに、私の中の悪戯心が暴れ出しそうになる。
帽子を脱いで、ウィッグも外してみようかな。
そんな私の心の異変に気付いたのか、ケイが窘める。
「間違っても、変装を解いたり、変装したままの画像をインスタにアップしたりしないでね!」
「はーい」
「君のフォロワー、世界中に何人居ると想ってるの? すぐ特定されちゃうよ。
それに、マネージャーさんにも内緒で来ちゃったんでしょ?」
「マネージャーには電話したわ」
私は嘘は吐いてない。
……マネージャーの返事を聞く前に電話は切っちゃったけどね。
こうして無事に空港の駐車場に着いて、彼の車の中で久しぶりのキスをしたの。
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