第3章 マクスウェル

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第3章 マクスウェル

 目覚めたら、真っ赤な世界があった。そんなことを経験した人間は多くないに違いない。  夜、月が東の空に昇る頃に目覚めたマクスウェルは、寝起きの頭でそう思う。  自分が吸血鬼という存在になったのだと、気付いたのは目の前の世界が真っ赤だったからだ。一面の赤。どこもかしこも血だらけで、そして、自分も血塗れだった。  周囲の怯えた目で、これが自分の所業だと理解するしかなかった。そして、舌に残る、何とも言えない甘美な味。それこそ、人間の血肉だった。 「ああ」  どうしようもないと、その場は逃げた。そしてここまでやって来た。来た当初は、自分の身体の勝手も解らず、ずいぶんと苦労した。しかし、紳士的に振る舞うことが身を助けた。これは、魔導師としての資格を得てから身についていたもので、まさか吸血鬼に堕とされたのに、神の威光に助けられるとは思いもしなかった。  今はもう、あの重たい外套は羽織っていない。普段はこの城で手に入れたスーツで過ごしている。神に背いたとされた者が神父服を着ているなんて、滑稽以外の何物でもないからだ。 「目覚められましたか」 「あ、ああ」  まだベッドの上でつらつらと考え事をしていたら、身の世話をしてくれるマリーがやって来た。そしてベッド脇にコーヒーを置いてくれる。  メイド服に包む少女のマリーは、マクスウェルが吸血鬼として助けた一人だ。つまり、彼女もまた、吸血鬼である。
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