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俺は、川本樹(いつき)。
35歳の独身男…
職業は一応画家をしている。
大手の日本画展覧会、院◯展に出品しているが最近、というか、ここ五年くらい落選が続いている…
その院◯展の締め切りが後一週間…
「あーーーーーー!しめきゅり!!(締め切り!)」
イェブァを介抱していた二人と茶色い髪の女の人が一斉に俺を見た。
「ウッラ。イェブァを部屋に運んでダニエルに診てもらう。サアラを頼む。後でまた様子を見に来る。」
「はい。かしこまりました。旦那様。」
石膏像の様な顔立ちの人はイェブァを担いで、ダニエルと呼ばれた髪がオールバックの男の人と部屋を出ていった。
俺はウッラと呼ばれた茶色い髪の女の人と部屋に残された。
ウッラはさっきまでの動揺は治まったようだ。じっと俺を見つめて何か考えている。
「うっりゃ?(ウッラ?)」
「はい。」
俺はウッラに抱かれていて、安心感がある。
何故か毎日この腕に抱かれていたような気がする。
ウッラの事も名前こそさっき知ったが、よく知っている気がしている。
この茶色の髪のくせ毛具合も良く知っているし、同じ茶色の瞳が優しく俺を見つめて微笑むのも知っている。
「うっりゃは、ははおにゃなにょ?(ウッラは、母親なの?)」
「ははおにゃ?あぁ母親?ですか?」
俺は頷いた。
「いいえ。サアラ様のお母様は奥様、イェブァ様ですわ。」
イェブァ、さっきの美人か。
そもそも、さっきから皆、俺をサアラって呼んでいるけど。
サアラって誰?
「しゃあらって、にゃれ?(サアラって誰?)」
「サアラ様、あなたのお名前ですよ。旦那様のアーネ プレイェル様と奥様のイェブァ様の次女ですよ。」
次女?
そんな俺は男だし。長男だし。兄弟は弟の空(そら)だけだ。
「おりぇ、おとこにゃよ!(俺、男だよ!)」
ウッラは不思議そうに首をかしげた。
「サアラ様は女の子でございますよ?」
「そんにゃことにゃい!(そんな事ない!)」
するとウッラは俺を抱えてドア付近にある大きな鏡の前に立った。
????
俺はどこ?
ウッラは鏡の中に映っている。
その腕の中にはプラチナブロンドの天使みたいな赤ん坊がいる。
赤ん坊は綺麗な薄紫色の大きな瞳を見開いてこちらを見ている。
世の中にはこんな可愛い赤ん坊がいるんだな~
俺が赤ん坊の頃の写真は顔に肉が付きすぎて肉まんみたいだったぞ。
「ね?サアラ様?可愛い女の子でごさいましょう?」
「え…」
俺はウッラに抱えられている。
鏡の中の天使もウッラに抱えられている。
俺は右手をブンブンと振ってみた。
「!!!」
あれ?
俺が手を振ったのに天使も振ってる。
髪を触ってみた。
ふうぁ
柔らかい。細い髪の毛…
触り心地はまるで鏡の中の天使の髪みたい。
俺の髪はオジサンに差し掛かっていて最近少しベタついているはずなのに。
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