立体駐車場

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 郊外にある大型ショッピングモールへで買い物に行った。  立体駐車場に入り、案内表示の方向へ進みながら空きスペースを探す。  休日だからか、店内入り口に近い辺りどころか下のフロアはどこもいっぱいで、必然的に上の階に行くことになった。  けれどそこも満車でさらに上へ。  ようやく屋上手前の階に空きスペースを見つけ、そこにバックで駐車しようとしたのだけれど、いつからそこにいたのか、係員さんらしき制服の人が、背後でオーライオーライと私の車を誘導してくれた。  後方の見えるナビもついているから誘導は必要ないのだけれど、向こうも仕事だ。断るのも悪い。  そう思い、手と声の動きに合わせてゆっくりバック駐車をしていたのだが、途中で違和感を覚えた。  両隣に停車している車に比べ、私の車だけずいぶん後ろまで下がっている。  両脇はどちらもボックス型の大きな車なので、鼻先が通路に少しはみ出してしまうのは仕方ないとしても、軽車両でもないのに、運転席が隣と比べ、こんなに後ろになってるなんておかしい。  車止めの間をたまたますり抜けてしまったのだろうか。でもそれなら、誘導している係員さんがすぐに言ってくれる筈だ。  オーライオーライと、相変わらず車の後方では、係員さんが声を上げながら手ぶりでバック誘導をしてくれて類いる。でも隣との位置関係がどうしても気になり、私はそこでブレーキを踏んだ。  自分で確認しようと、後方を見通せるナビのスイッチを入れる。  その途端、画面に酷く忌々しげな男性の顔のアップが映った。   車内で咄嗟に背後を振り返ったけれど、そこには誰の姿もなかった。  すぐに車から降り、今度は外から後方の様子を確かめる。その瞬間、私の全身に寒気が走った。  さっきまで私の車の誘導をしていた係員がいない。というか、車の後ろには人間が立てるスペースなど存在していないのだ。  車止めどころか、フェンスギリギリで私の車は停止していた。  フェンスといっても、外から鳥が入って来るのを防ぐ程度の代物で、ゆっくりとだとしても、車が押せばたやすく外れてしまいそうな印象だ。  もしあのまま後ろへ下がり続けていたら、私は確実にこのフェンスを突き破っていた。そして、車ごと最上階から転落していただろう。  せっかく空きスペースに駐車したけれど、もう買い物の気分など吹っ飛び、私は一目散にその場から立ち去った。  私が見た、バック運転を誘導してくれる係員は何だったのだろう。  あのショッピングモールの駐車場で転落事故が起きたという話は聞いたことがないけれど、この先は、なるべく平面駐車場を利用し、それが無理な時は潔く、買い物は諦めようと思う。 立体駐車場…完
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