避けろ

1/1
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
 会社へ向かう途中の道で、前を走っている車が、揃いも揃って大きく右にハンドルを切り、また元に戻っていくのが見えた。  道端に何か停まっている。あるいは道路に何かが落ちているのだろう。  走りながら前方を窺ったが、俺の位置からでは何も見えない。多分、道に何か落ちているんだろうな。  俺も避けるつもりでハンドルを握っていたが、いよいよその付近に近づいても、道路には何も見当たらなかった。  みんないったい何を避けているんだろう。  疑問に思いつつも、何もないならと直進しかけた時、ふいにどこかから声が聞こえた。 「そのまま真っ直」  車内には俺一人。ラジオの類は聞いてないし、外の声が聞こえてきたというふうでもない。  でも確かに声が聞こえた。そして、体がそれにとんでもなく寒気を覚えている。  道には何もないけれど、その指示に従うのだけは嫌で、俺も前を行く車達同様、右にハンドルを切ってその場所を迂回した。  通り過ぎてからバックミラーで確認するが、やはり道には何もない。  さっきの声は何だったのだろう。空耳かな。  会社についてもそればかり考え、ただでさえ気の乗らない仕事がまったくはかどらなかったけれど、それでもどうにか残業だけは免れた帰り道。  いつもの道に交通規制が敷かれ、渋滞が起きていた。  片側通行の指示に従い、長く待たされた後、規制された道路を通る。  結構大規模な事故があったらしく、現場ではまだ処理作業が行われていたが、その場所は、今朝、俺や他の車が直進を避けて走ったその場所だった。  あの時の声は空耳ではなかったのだろうか。そして、もし声の通りに直進していたら、その時事故を起こしたのは…。  事故現場を横目に見ながら通り過ぎる。  明日はこの交通規制は解除されているかな。だとしても、明日の朝はいつもより少し早く起きて、 遠回りを承知で他の道を通って会社に向かうことにしよう。 避けろ…完
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!