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会社へ向かう途中の道で、前を走っている車が、揃いも揃って大きく右にハンドルを切り、また元に戻っていくのが見えた。
道端に何か停まっている。あるいは道路に何かが落ちているのだろう。
走りながら前方を窺ったが、俺の位置からでは何も見えない。多分、道に何か落ちているんだろうな。
俺も避けるつもりでハンドルを握っていたが、いよいよその付近に近づいても、道路には何も見当たらなかった。
みんないったい何を避けているんだろう。
疑問に思いつつも、何もないならと直進しかけた時、ふいにどこかから声が聞こえた。
「そのまま真っ直」
車内には俺一人。ラジオの類は聞いてないし、外の声が聞こえてきたというふうでもない。
でも確かに声が聞こえた。そして、体がそれにとんでもなく寒気を覚えている。
道には何もないけれど、その指示に従うのだけは嫌で、俺も前を行く車達同様、右にハンドルを切ってその場所を迂回した。
通り過ぎてからバックミラーで確認するが、やはり道には何もない。
さっきの声は何だったのだろう。空耳かな。
会社についてもそればかり考え、ただでさえ気の乗らない仕事がまったくはかどらなかったけれど、それでもどうにか残業だけは免れた帰り道。
いつもの道に交通規制が敷かれ、渋滞が起きていた。
片側通行の指示に従い、長く待たされた後、規制された道路を通る。
結構大規模な事故があったらしく、現場ではまだ処理作業が行われていたが、その場所は、今朝、俺や他の車が直進を避けて走ったその場所だった。
あの時の声は空耳ではなかったのだろうか。そして、もし声の通りに直進していたら、その時事故を起こしたのは…。
事故現場を横目に見ながら通り過ぎる。
明日はこの交通規制は解除されているかな。だとしても、明日の朝はいつもより少し早く起きて、
遠回りを承知で他の道を通って会社に向かうことにしよう。
避けろ…完
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