1日目(雨)

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「あ、傘忘れた」 あと一段というところで気づき、回れ右をした。学校に着くまでの時間が延びて、内心少し、ほっとする。落としたコンタクトでも探しているかのように汚れた階段に目を落とし、ゆっくりと上がっていく。 家の前に着き、傘を取ってまた階段を下りる。踊れ場に差し掛かったとき、隣のクリーム色をしたアパートの屋上に二羽の鳩がいるのが見えた。鳩は少し歩いていたかと思うと、パッと羽を広げて飛び立って行った。 「いいなぁ」 口から零れたその言葉は、なまぬるい空気に溶けて消えた。 わたしにも『羽』があったら。よくそんなくだらない空想をする。何にも縛られず、どこまでも飛んでゆける。もしそんな羽がわたしにもあったらわたしはどうしたのかな。答えなんて、わかってる。 パッ 傘を開いて雨の中に踏み出す。幾重にも重なったみずのカーテンの中にぽっかりと空洞ができた。わたしのまわりだけ、雨も寄りつかない。ドロップのような大粒の雨はビニール傘に当たってポッポッポッと心地いい音を立てている。 パシャン パシャ ジャポン みんな産まれた頃から『羽』を背負ってる。気が付いていないだけ、気が付いていないフリをしてるだけ。思った以上に深さのあった水たまりに沈んだ足は水を吸って重い。
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