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彼の要望で居酒屋に来た。
私たちは個室に通され、いつも通り私は夫の向かいに座った。
「なぁ、こういうときって普通夫婦が隣に座るもんじゃねぇの?」
「そうか?」
「そうなの?」
「あーはいはい、お前は俺の隣がいいもんねー」
彼はそう言って私の頭を撫でながら横に座った。
「後から座ってきたくせに」
彼はお酒に強くガンガン飲んでいく。夫はそんな彼にペースを乱されたのかしばらくすると酔いつぶれた。
「あーりゃりゃ、寝ちゃったか」
彼は夫の頬をツンツンと突いた。
夫が寝ているのを確認し、満足した彼はあろうことか私を引き寄せそのままキスしてきた。
「いやっ」
私は引きはがそうとするが、彼はびくともしなかった。
「ねぇ、今あいつが起きたらどんな反応するかな」
彼は悪戯っ子のような笑顔で聞いてきた。
「…反応するのかなぁ。この人、私にきっと興味ないよ」
「…ふーん」
無抵抗になった私を彼は抱きしめ、至る所にキスしてきた。
私はされるがままになりながらも、じっと夫を見ていた。
本当に今起きたらどうなるのだろう。彼は怒るのだろうか。
結局夫は酔いつぶれたまま終わった。彼が夫を背負い、タクシーに乗せ、家についた後も寝室まで運んでくれた。
「ありがと」
彼は私に軽いキスをした。
「お駄賃ね」
彼は私の頭を撫でて帰っていった。
次の日、私は少し実験をしてみた。
朝洗面所で顔を洗っているとき、首元にキスマークをつけられていたことに気付いた。
私はあえて隠さずそのままにしてみた。ただ、夫がどんな反応するのかが見て見たかった。
浮気してさらに夫の愛を試すだなんて私もクズだなと思う。私にも彼と同じクズの血が流れているのだろう。
怒られても、別れを切り出されても、取り乱されても、刺されようとも全て受け入れる気ではいた。
ドアが開いて夫が顔を出した。
「おはよう」
「おはようございます」
彼の目線が下がり、目を見開いた。
気付いた。しかし、彼は何もしなかった。
「ご飯は?」
「…あ、うん」
何事もなくいつも通りご飯を食べ、会社へ向かっていった。
夫は私をどう思っているのだろうか。
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