11/11
前へ
/34ページ
次へ
彼は2、3日に一度は必ず家を訪ねてくるようになった。 飽きっぽい彼のことだ、すぐ来なくなると思っていたが意外と続いている。 我儘で自己中心的な彼、それは昔から変わらない。 でも、最近は私の我儘と言うか、私の言うことを割りと聞いてくれる。例えば、一緒にテレビを見ていて美味しそうと言えば次の日買ってきたり、雑誌の服に印をつけておけばいつの間に見たのか、その服を買ってきてくれたりした。 言うことを聞いてくれるというよりは、私の望みを勝手に叶えてくれるの方が合っているのかもしれない。 ただ、私がこの関係を終わらせたいと願えば、彼は嘘つくなよって笑って取り合ってはくれないのだ。 彼が男女問わずモテる理由が最近よくわかってきた。彼は人を良く見て、その人が望むものを提供するのだ。彼の仕事の成功もその眼があってこそかもしれない。 彼は私を自分の一番の理解者だと言う。 でも彼の気持ちも、夫の気持ちも全くわからなかった。 テーブルに二人分のコーヒーを置き、ソファに座る彼の隣に私も座った。 「ねぇ、もし私が夫と別れたいって言ったらどうする?」 「別れてぇの?」 私は左右に首を振った。 「そうじゃないけど…」 「生活も何不自由なく、お前の好きなちょうどいい距離感、顔も割とお前の好みだろ?」 「…そうだけど。私達の場合、距離感が遠くない?」 「色んな夫婦の形があるだろ」 「夫は私のこと好きなの?」 「あいつは自分の意思でお前を選んで、お前と結婚したんだよ」 彼は頭を優しく撫でてくれた。 「…私は彼のこと好き?」 彼は私の顎を掴み噛み付くかのようにキスをしてきた。 「お前が好きなのは俺でしょ?」 「ははは、そうだね、そうだったね」 よくわからない涙が出てきた。私が必死に隠してきたものが出てきてしまったようだ。 「もし、もしも私が夫と別れたとして、私のことまだ愛してくれる?」 彼はただ返事をせず私の頭を撫でるだけだった。 彼の中で私に魅力を感じるのは、あくまで私が誰かのものであるときだけなのだろう。 彼に捨てられないために、夫から捨てられないようにしないと。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

118人が本棚に入れています
本棚に追加