私2

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憂鬱な帰省だ。 ただ、不思議なことがある。 「…なんでいるの?」 「え、なんで?」 隣の席には彼がいた。 私がバスに乗り、席に座ったところで、白々しくも相席いいですかと座ってきたのだ。 「ほら、ちゃんとお菓子も買ったし、楽しく行こうぜ」 「…はぁ」 私は窓の外に視線を移した。 私の中で大好きな彼といれることよりも家族に会う嫌さが勝ってしまうのだ。 「お前の母さんから連絡あったよ。お前をちゃんと連れて来てくれって」 「…嫌い」 「お前が親と仲悪いのわかってる。…俺がいてちょっとでも嫌さを緩和させてあげよーって思っただけ」 従兄の方を見るとお菓子を加えながら笑っていた。 「…今の嫌いは母親に対してだから」 「知ってる、お前が俺のこと大好きなことくらい」 私の口にお菓子を突っ込んできた。 「…そっちは家族仲良いよね」 「……まぁねぇ、色々あるけど、お前のとこよりは仲良いね」 彼は新しいお菓子の袋を開けた。 「親と何話したらいいの?一緒にいて息苦しさを感じる家族って何?」 「一応聞くけど、夫といて息苦しさは感じる?」 彼はふざけて聞いてきた。 「別に、家族とより他人と暮らす方が楽だし。…まあ誰かさんのおかげで気まずさは最近あるけどね」 「あー誰だろうねー?」 今度は食べかけのお菓子を私の口に突っ込んできた。 「ま、俺のとこの母さんは緩いからね。いいとこの大学出たくせに、ろくな仕事に就かず、結婚もせずふらふらしてる俺を許すんだから」 「いいよね、私優しいおばさん好き」 「…変なとこはしっかりしてんだけどな」 「え?」 「いや?」 「うちの親はね、出来の悪い私を許さないの、期待してたから。ただ、子供2人はまったく思い通りに育たなかったけどね」 私が結婚したのは、ちょうど将来の不安から、親のプレッシャーから逃げたかったからっていうのもあった。 就きたい仕事もなくて、内定も取れなくて、でも何もわかってない親からああだこうだ言われる。それがたまらなく嫌だった。 夫が一流企業に勤めていたおかげで、結婚して専業主婦になるということを半ば無理やり親に認めさせた。 私は親不孝なんだと思う、今も昔も。育ててくれたことに感謝はしている。でも、親を、家族を好きにはなれない。それは、あなた方の育て方のせいです。 「大丈夫、お前はちゃんと出来る子だから。ほら、良い子、良い子」 彼は私の頭を撫で、自分の肩に私の頭を乗せた。 「ありがと、お兄ちゃん」 そのまま撫でられている頭が気持ちよくて私は目的地まで寝た。 目的地は、終点。 いつの間にか私と彼の手は繋がっていた。 彼の寝顔に、こっそりキスをした。
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