私2

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「俺がなんだって?」 私が帰ろうと荷物を持ち振り向くと父が立っていた。 昔から父親は苦手。父に従い、尽くし、私にうるさく言う母には文句を言えても、どうも父には逆らいにくかった。 「お父さん、この子、子供を産まない気らしいわよ」 父は私の目を見て近づいてくる。突然頬を叩かれた。パシンッと良い音が鳴った。 「お前はうちをつぶす気か?」 ああ、本当に、この家は嫌いだなあ。 人の話も聞かず私の全てを否定し怒る父、私に似ている母、親から期待されずただいる弟。 ああ、本当に、あの夫のいる家が恋しいなあ。 「…結婚に反対してた人たちが何?」 「あ?」 「結婚に反対してたくせに、したらしたで子供産めって何」 また父親に頬を叩かれた。 「親に向かってなんだその言葉遣いは」 「私は嫁いだの!結局子供産んだってこの家を継ぐわけじゃない。孫だのなんだのそういう話は、あんたの、出来損ないの、彼女もいない息子に言えよ!」 数秒間、沈黙が流れた。 その隙に、私は荷物を掴み、従兄の手を掴み出て行こうとした。 「待て!嫁いだら親との縁も切れるのか?」 「別に、今、切っただけ。今まで育ててくれてありがとう。最後に、これだけ言わせてね。…昔から、この家大っ嫌いだった」 私は笑顔で言い放った。両親の驚いた顔と、真っ暗になったスマホ画面をずっと見つめる弟が見えた。私はそのまま従兄の手を握って走って逃げた。 「いいの?あんなこと言って」 「いい。スッキリした。帰ってきて良かったかも」 「俺はめっちゃ気まずかったけどね」 「ごめんね。でも、お兄ちゃんのおかげかも。私も自由になろうって思った。性格悪いクズになろうって思った」 「おい、誰が性格悪いクズなゴミカス野郎だって?」 「そこまで言ってないじゃん」 私たちは笑いながらバスを待った。 「なぁ、このまま旅行でも行っちゃう?2~3日家開けるつもりだったんだろ?」 「うーん、行きたい、けど。また今度がいいな」 「なんで?」 「なんか、今は無性にあの家に帰りたいんだ。あの家に帰りたいって思ったの初めてだわ」 「…そう。…じゃあ、旅行はまた今度な」 「うん!」 「ただいま」 「おかえりなさい!」 私の出迎えに夫は驚いていた。 「…2~3日実家にいるんじゃなかったのか?」 「なんか、大したことないみたいだから帰ってきました」 「…そうか。ゆっくりしてくれば良かったのに」 「いえ。あ、ご飯でいいですか?」 夫の背広を貰いながら問いかける。 「ああ。今日はなんだかいつもより豪華だな」 「…ええ、ちょっといいことがあったんで」 私は鼻歌を歌いながら夫の背広をハンガーにかけた。
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