私3

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数日後、夫と共に、家で食後に紅茶を飲んでいた。 ピンポーン インターホンが鳴った。 「はい」 『宅配便です』 箱を持った男が画面に映っている。 「今開けます」 頼んでいたスタンガンだろう。 私は疑わずにドアを開けた。たぶん危機感が足りなかったのだろう。 ガチャ なんだかスタンガンにしては箱が大きすぎるような気がする。 「ではこちらにサインをお願いします」 ボールペンを受け取りサインしようと箱に目を向けた。 でも、箱にいつものサインを書く紙はついていなかった。 「あの…?」 「ああ、こちらです」 箱の上に紙が置かれた。 …婚姻届? 「どういう…?」 バチッ ドサッ 私は倒れた。意識はなんとか保てるが、体は痺れて動かなかった。 「あいつがいない今がチャンスですもんね。後は夫からあなたを救うだけだ」 視線を男に向けると右手にスタンガンを持ち、左手で帽子を少し上げ笑っていた。 怖かったのは、この顔に見覚えがないことだった。 男は私を担ぎ箱の中に入れようとしてくる。 「やめ……や…」 「傷が残らないように電流を弱くしたのが間違いだったかな」 抵抗も出来ない。 「どうした?」 不審に思った夫が玄関に向かってくる。 「…だ…め…」 「…何をしてるんだ?」 初めて聞く、低く怒気を含めた声だった。 「あれ、おかしいなぁ。いつもなら仕事ですよね?さぼりですか?だめだなぁ」 男は笑っている。 「俺の嫁に何してんだ」 「もう他の男に取られてるんだから、僕にくれたって良くない?」 駄目、言わないで。 「どういうことだ?」 「あなたの奥さん、従兄と浮気してるんですよ。あなたが仕事してる間、この家で」 こんな知らない男にばらされたくなかった。 こんな形で夫に知られたくはなかった。 「…」 夫はただ無言で男を見つめる。 「でも、あなたよりもあの男よりも、僕の方が彼女を愛してるんだ。彼女を幸せにするのは僕だよ」 「お前がどれだけ愛してようが、お前が愛されてないんだから、幸せに出来るわけないだろ」 「はぁあ?」 ニコニコしていた男の顔が一気に歪んだ。 「愛がなくたって幸せにはなれる。でも、お前には愛もないし、一緒にいるメリットもない。幸せになんてなれるわけないんだよ」 「何なんだよお前はぁ!」 男は胸ポケットからナイフを出し、夫に向かって走っていった。 夫はわき腹を刺された。 「いっ…くそっ」 「ああ…」 私はそこで意識をなくした。
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