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夫2
俺は知らない男に刺された。
凄い痛かったが、ナイフを抜き離れようとする男の腕を掴み、引き寄せた。
思いっきり男の腹に蹴りを入れた。
鳩尾に入ったらしく、男はうずくまった。
俺も腹を押さえうずくまる。
近くでサイレンの音が聞こえた。あらかじめ呼んでいた警察が来たようだ。
時間稼ぎは上手くいった…と言っていいのだろうか。
「ううっ…」
俺は痛みに耐え、立ち上がりもう一度男を踏みつけた。
「うあっ…」
「はぁ…はぁ…お前じゃねぇんだよ、お前じゃ。…お前じゃ、意味がねぇんだよ」
俺は色んな怒りがこみ上げ、無心で男を蹴っていた。
これから、どうしようか。
ふと倒れている妻が目に入り、我に返った。
そうだ、救急車も呼ばないと。携帯、携帯…。
駄目だ、痛みが、襲ってきた…。
俺はそこで意識をなくした。
俺が目を覚したとき、見知らぬ天井が見えた。点滴も見えるし病院だろう。
寝ている横で妻は俺の手を握り悲しそうに俯いていた。
違う、そんな顔が見たいわけじゃない。
違う、俺なんかのせいで悲しまないで。
違う、お前の横にいるべきなのは…
「…俺じゃない」
俺はまた夢の世界へ逃げた。
目が覚めたとき、いつも通りの朝に戻っていればいいのに。
遠くの方で妻の声が聞こえた。
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