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あの食事会から数ヶ月が経ち、あいつから連絡が来た。
あの後彼女とは数回デートし恋人になっていた。
「どうなった?」
「お前が急かすからプロポーズはしたけど…」
こいつは俺と彼女がちんたらデートしているのを良く思わずとっとと結婚しろと言ってきたのだ。
「けど、なんだ?」
「本当に好きでもない相手と結婚してもらえるのかって不安はあるよ。まだ会って数ヶ月だし」
「俺もあいつに念押ししといたから、そろそろOKの返事が来るはずだ。大丈夫だよ、あいつのことは俺が良く知ってんだから」
「はいはい、大人しく待ちますよ」
「そういや、お前なんてプロポーズしたの?」
「………教えねぇ、切るぞ」
こいつに言ったら死ぬまでからかってきそうだからな。
「あ、そうそう…お前、あいつには惚れるなよ」
「大丈夫だよ、惚れないから」
「自分の女に絶対惚れないって自信持たれるのも腹立つな」
俺は通話を切った。
スマホを置いてコーヒーでも飲もうかと立ち上がった瞬間、スマホが鳴った。
「はい」
「こんにちは、今…大丈夫ですか?」
どうせあいつだろうと思って名前を見なかったが、彼女からだった。
「え、ああ。大丈夫です」
「この前の返事…したくて」
「焦らなくてもいいよ。俺も急すぎたかなって思ってたんだ」
「いえ。…お受けします。こんな私でも…良ければ」
驚いた。本当にあいつの思い通りな彼女に。そして彼女の全てをわかっているあいつに。
「そっか…良かった、嬉しいよ」
それから色々段取りを行うために次に会う日を決めた。
彼女に惚れるな、か…。
顔も悪くないし、性格ももちろん申し分ない。でも、僕は絶対に惚れない自信が会った。
食事会で見た彼女はあいつと話すとき本当に綺麗だった。俺にはそんな顔させられるはずがないと思った。
それはあいつにも言えた。他の女には絶対に見せない顔。長年つるんでた俺にも牽制を忘れない、あいつが初めて見せた執着心。
昔付き合っていた彼女が恋愛ドラマを見ていたとき言っていた。
「私はこの俳優が好きなんじゃなくて、この俳優とこの女優が恋人役で幸せそうにしているところを見るのが好きなの」
そのときはなんだそれって思ったが、今ならその気持ちはわかる。
俺はあの2人を見守りたい。
親友とそいつが惚れた女、その2人が幸せなら俺も満足だ。
俺は結婚生活が楽しみで仕方なかった。
惚れないように、惚れられないように。2人の邪魔に、ならないように。
いつか、3人で暮らせる日も来るのだろうか。
目の前で2人をずっと見ていられる生活を思い浮かべると、にやけて仕方なかった。
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