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「ただいま…ただいま」 「…あ…おかえりなさい」 昼間のことを考えないように無心で料理を作っていたら夫が帰ってきたことに気付くのが遅れた。 「なんかあったのか?」 「ううん、何も」 私たちはいつも通りご飯を食べ、お風呂に入りあまり会話もしないで別々の寝室に入った。 私はベッドに背中からダイブして今日あったことを考えた。 …忘れよう。そうだ、彼は私を好きになるはずがない。きっとまたいつもの気まぐれで遊びに決まってる。 次の日。彼はまた家に来た。 「何しに来たの?」 「好きなやつに毎日会いたいって思うのが普通じゃねぇ?」 「人妻、それも友達の嫁に手を出すのは普通じゃないと思う」 「素直になれよ、な?」 彼はそう言って私の肩に手を回してきた。 「嫌っ」 私は彼を押しのけようとした。しかし彼の力の方が強く私の抵抗は無に等しかった。 「ね、これなーんだ」 彼は胸ポケットを探り一枚の写真を取り出した。 私は目を見開いた。昨日の私たちの写真だ。 「なんで、これ」 「動画もあるよ。見たい?」 私は首を横に振った。彼は私の頬を手で包んだ。そして、私の目をしっかりと見てきた。 「じゃあどうすればいいかわかるだろ?お前は賢い子なんだから」 私は静かに頷いた。 気づいたら私は丁寧にベッドに寝かされていた。…夫の。 「わざとでしょ」 「何が?」 彼はお風呂に入ってきたらしく髪をガシガシとタオルで拭いていた。 「ここ、夫のベッドなんだけど」 「え、夫婦って普通ベッド一緒じゃねぇの?」 彼は本気で驚いているようだった。 「こういう夫婦だっているでしょ」 「あーお前ら普通の夫婦じゃねぇもんな」 彼はにやにやした。 「うるさいな」 「じゃあ俺帰るわ」 私は上半身を起こし彼が出て行くのを待った。 しかし彼は私に近づいてきた。 「今度一緒に買い物行こうぜ。良い下着買ってやるからさ」 私の胸元を思いっきり見ながら言い放った。 そして私の胸元にキスをして帰っていった。 私は彼を相手にする疲れからか体をベッドに沈めた。しかし、これが夫のベッドということを思い出し、大人しくベッドから離れた。 私がベッドに入った痕跡を消さないと。…めんどうごとを増やして帰っていったな。
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