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私は夕飯の買い出しを終えて家に帰ろうとしていた。
それなりの重さの買い物バッグを肩にかけ歩いていると、私は横から衝撃を受けた。私は地面に倒れてから見知らぬ女に突き飛ばされたのだと気づいた。
「ねぇ、あんたなんなの」
「どなたですか?」
「これは何」
この前の従兄との買い物写真を突き付けられた。
ああ、彼の女か。学生時代勘違いされて因縁つけられてたことを呑気に思い出していた。
「あんたさぁ、夫いるんでしょ。浮気?この写真どうなってもいいの?てかこいつはクズだからやめた方がいいわよ」
でも、あなたはそんなクズが好きなくせに。
「その人がクズなことはよく知ってますよ。夫に見せても問題ありません。その人、従兄ですから」
「嘘よ。従兄と下着買いに行くってなに」
面倒なところを見られた。それかつけられていたのか。
「この人はそういう恥ずかしさとかないでしょ。男が好きそうな下着くらい持っとけって連れてかれただけです」
「何よそれ」
女はヒステリックに叫ぶ。私は立ち上がって服についた砂を払った。
「あなたは従兄の彼女さんですか?それとも、元カノ?」
「この前急に振られた」
女は小さく低い声で答えた。
「まだ好きなんですよね。逃げられないんですよね。だけど、他の人探した方がいいですよ。絶対あの人とじゃ幸せになれませんから」
「あんたにはわからないでしょ。ただの従妹なんだから」
ただの、か。
「でも、あなたみたいな人、何人も見てきましたから」
私は頬を叩かれた。
「彼が本気で人を好きになることなんてないんですよ。彼は常識も愛情も持ち合わせてないんだから」
「…うるさい」
「彼と出会って彼を好きになった自分を呪うしかないんですよ。悪い夢だと思って忘れないと」
しばらくして女は突然笑いだした。
「…ああ、あんたも好きだったんだ。偉そうに説教たれてるけど、仲間じゃん。妥協して今の旦那さんと結婚したんだ、可愛そう。あんたもあんたの旦那も」
あなたも旦那を作れば愛してもらえるかもねって思ったけど言うのはやめた。私の夫みたいに被害者を増やすだけになりそうで。
「そうかもしれないですね」
「うざっ」
女は私を突き飛ばして去っていった
彼はどうして私なんだろう。既婚者の女なんてそこら中にいるのに…。
私に隙があるからなんだろうか。
数日後、従兄はまた家に来た。私は腕を組みながら扉の前で待った。
「なに、出迎え?珍しいね」
「この前、誰かさんの元カノさんに因縁つけられましてね。私が既婚者ってことも知ってて、あなたと買い物に行った写真で脅されかけたんですけど」
「ふーん、で、お前はなんて言ったんだ?」
他人事みたいに答えるけど、そっちが原因だからな。
「従兄と買い物に行っただけ、って」
「だけ、ねぇ。他になんかされたか?」
「ほっぺた叩かれたのと、ちょっと突き飛ばされたくらい」
「…その女、どんなやつだった?」
「化粧濃いめで、ブランド好きって感じの女」
「もっとなんかねぇの」
「なんかって言われても…。あ、この前急に振られたとは言ってた」
「ブランド好きでこの前振った女…。ああ、あいつか」
「あなたと出かけるたびに元カノさんに因縁つけられちゃ困るんですけど」
「嫉妬?」
「はぁ?」
「そのマナー悪いやつは元カノじゃねぇよ。一回寝ただけの女。振ったって言うかしつけぇからもう連絡してくんなっていったくらいだし。俺はマナーのいい女としか付き合わねぇから」
マナーのなってない奴がよく言うなぁ。まあ自分にないものを相手に求めるって言うやつだろうか。
私の横をすり抜けて家に上がろうとする彼の胸を押した。びくともしなかったが、彼を驚かせるくらいの効果はあったようだ。
「なに」
「なにじゃなくて。もう終わりにしたいんですけど」
「あー、なるほどね」
彼はにやりと笑って家から出て行った。
やけにあっさりと家から出て行くもので少し驚いた。でもきっと彼の中でやはり私もその程度の女だったということだろう。
…残念がってなんかない。ましてや悲しんでなんてない。
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