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「え? 本当~?」
「……」
菜奈子の言葉に対する反応は二人とも正反対で――。
ニコニコと笑いながら上機嫌でターンしてみせる帝太郎に対し、玉郎はムスッとして無言だ。いつもならここまで不機嫌にエプロンを受け取る事はない玉郎だが、先程家で愛用している飾り気のないものを脱いだばかりだと思えば無理もあるまい。
「玉ちゃんも似合うってさ~。良かったね~♪」
一人で喜んでいれば良いものを、この能天気な春風男は玉郎の心を逆撫でするような事を何の躊躇いもなく口の端に乗せる。
「……普通男はそんな事じゃ喜ばねーよ」
溜め息まじりに告げられた玉郎の言葉。明らかに言外に「これが俺の主人だなんてよ」という一文が伺える。
「ほらほらまたぁ! 口はお休みして手を動かして下さいね。……そうだ! 玉郎さん、あっちの棚のはたき、頼めます? 私じゃ上の方、届かなくって」
そんな二人の様子を物ともせずに、てきぱきと指示を出していく菜奈子。
さりげなく出した指示で、帝太郎と玉郎の間に距離が出来るように配慮するのも忘れない。実は彼女こそ、ここの真の責任者なのではあるまいか。
「で、所長は買い出しお願いしますね」
「買い出し?」
紅茶もお茶もお菓子もジュースも……それからそれから……う~ん……トイレットペーパーだって買ってきたばっかりのはず……。
ぶつぶつ言いながら考え込んでいるらしい帝太郎に、菜奈子が吐息をひとつ。溜め息をつくたびに幸せが逃げると誰かが言っていたけれど、ここに居たら一生幸せにはなれないわね。そんな事を思いながら。
「……お忘れになったんですか? 今日は節分ですよ?」
お祭り好きの帝太郎の事だ。いざ豆まきだ!という段になって肝心の豆がない、なんて事になったらどんなに駄々をこねる事か。考えただけで頭が痛い。
「あ、そうだった~」
普通の人間なら自分が楽しみにしている催しに関わる事物を忘れたりする事はまずない。しかし相手が帝太郎となるとそうは言っていられない。
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