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そんな感じで、一人暮らしも二年経てばそれなりに落ち着いていて――。
「今日はぼ~くのた~んじょおびぃ~♪」
持ち前の能天気さで一人暮らしをエンジョイする帝太郎。
しかし、その日は何故か玉の事が気になって仕方がなかった。
それが原因かどうかは分からないけれど、今回の誕生日は一人で過ごしたいような、そんな気分になった。
だから「誕生日を祝ってやろう」と言ってくれたみんなからの誘いを断って、一人でお祝いモードなのだ。
沢山の人に親切にしてもらえるから、ちゃっかり四号サイズのバースデーケーキ……なんて贅沢品を買うゆとりも出来ていたりする。
こたつに入ると、上機嫌でケーキに色とりどりの蝋燭を立ててゆく帝太郎。その数、きっちり二十本。小さなケーキに立てるには多すぎるようにも思えたが、彼にはそんな事お構いなし。鼻歌交じりで容赦なくケーキに穴をあけていく。
立て終わった蝋燭全てにライターで火をつけながらも、手が無意識の内に胸前の玉にいってしまうのは何故だろう。
「暖かい……?」
今までは無機質の冷たさしか伝わってこなかったそれなのに、ここ二、三日で何となく熱を帯びてきたように感じられる。
「まさかねぇ~」
何度か袋から取り出してみたけれど、別段いつもと変わったところは見られなかった。
「そりゃぁ、僕ん家は普通の家じゃなかったけどさ~……」
それが原因で出てきたのだが、家の事が全く気にならなかったわけではない。
年が十二離れた弟は、元気でやっているだろうか?
時折ふとそんな事を思う。
(僕がいなくなったせいであの子、苦労してるんだろ~なぁ~……)
今の時代には、ともすると古臭くさえ思えてしまう、後継ぎ問題。
――ギョクフウシ。
父親がよく口にしていたそれは一体何の事だったのだろう?
「インチキ霊媒師の親戚みたいなもんかな?」
決して神社仏閣の類いではないはずなのに、広大な敷地に「御霊屋」なるものを有していた実家。
子供の頃、何度か入った事があるそこには、燭台に灯る十数本の蝋燭の薄明かりに照らされて、沢山の小さな玉が並べられていた。
その様は、幼い自分にも不思議と神聖に感じられたものだ。そして、その余りの神々しさ故に怖いとさえ思ってしまう場所だった。
そんな建物が、当然のように鎮座している家なのだ。察するに、ギョクフウシというものも、ろくでもないものに違いない。
幼い頃はわけも分からず父親のなすがままになっていた、真言の唱え方や印の組み方なんかの修行。
物心ついてから気付いたのだが、同年代の子達で、そんなものを教え込まれている者は一人としていなかった。
血の影響か、元々そう言う素質に長けていたのか、帝太郎は乾いた大地が水を吸い込むように、それらの技術を難なく身に付けたものだ。
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