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こんな風に死に物狂いで訴えられてしまっては――例えそれが人外の者であっても――冷たく突き放すのが難しい事この上ないではないか。
情にもろい自分の性格を、今日程恨めしく思った事はない。
「呼び出した! だってお前、和歌、口にしただろ!」
「和歌?」
確かに読んだ事は読んだけれど――。
「歌意だって理解して口にしたんだろ!? だったら立派に俺を召喚するに値する言霊だ! だから責任取ってもらわねぇと困るんだ! 玉封じの鬼は一度呪をかけられちまったらその相手が死ぬまでそい
つに仕える運命なんだからな!」
(呪なんてかけた覚えないのにぃ~)
無性に泣きたくなってきた。でも、それは眼前の男にしても同じようで――。
この、饒舌かつ必死な様子から考えて、ここで自分がさじを投げてしまったら、何だかとっても可哀想な気がする。
「……保障は出来ないよ?」
「……?」
「だから……、その……玉封師になるってやつ……。それでも良いんなら……」
主人になっても構わない。そう言外に含ませる。
「いい! 何百年も待つよか、よっぽどマシだ! よろしくな、帝太郎ちゃん♪」
思えば幼い頃からずっと生活を共にしてきた玉である。その玉から出て来た眼前の男が、自分の名前を知っているのは何となく理解出来る。でも帝太郎にとっての彼は、つい今し方までただの玉――お守り――でしかなかったのだ。
「ねぇ、名前とかないの?」
「だから、玉封じの……」
「それ以外」
呼び掛ける度に「ねぇ、玉封じの鬼」なんて言わせる気だろうか? 意図せず溜め息がこぼれる。
「そんなのねぇよ。名前なんざ、随分昔におさらばしちまったし。……まぁ、どうしてもってんなら勝手に付けてくれて構わねぇけど。好きにしな」
「それじゃあ……桃太郎にちなんで」
「玉太郎は却下!」
「勝手に付けていいって言ったくせにぃ~!」
眼前の鬼のセリフに、ぶつくさ文句をたれる帝太郎。しかし持ち前の能天気さですぐににこやかな笑みを浮かべる。
「じゃ、玉郎! これで決定ね。異議は認めませ~ん。よろしくね~、タマ♪」
「た、タマ……?」
唐突に差し出された手を条件反射で握り返してみたものの、帝太郎の言葉に玉郎は思わず目を見開く。
「玉から出てきたからタマ♪」
その発想では玉太郎と大差ないのではなかろうか?
「でも今、玉郎って――」
「それは本名♪」
「じゃ、タマってのは」
「ん~? 猫呼んでるみたいで可愛いから! 僕、ペットって飼った事なかったからさ、一度気分味わってみたかったんだよね~」
理由はそれだけ。
言いながら満面の笑みを浮かべる帝太郎。
いつから俺は愛玩動物になったんだっ!!
そんな事を、声を大にして言いたい玉郎であったが、長年の付き合いで帝太郎の性格は知悉しているつもりだ。
結論を言ってしまえば、つまりは何を言っても無駄という事で――。
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