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がっくりと肩を落とすと、
「……せめて『タマ』で切るのだけはやめてくれ……」
消え入りそうな声音でそう呟いてから、恨めしそうに帝太郎を見やる。
「ん~。じゃぁ……玉ちゃん!」
単に「ちゃん」が付いただけだから「タマ」と変わらない気もするのだが、ないよりは幾分かマシに思えた。……とすれば、この辺で妥協するのがよかろうか。
そう考えて気を取り直すと
「こっちこそよろしくな! 頼りにしてるぜ、玉封師!」
殊更「玉封師」のところに力を込めてニタリと微笑う。
玉郎の、こういう切り替えの早さは帝太郎と似ている気がする。
玉郎と帝太郎の波長が合ったというのは案外そういうところに起因しているのかも知れない。
「玉封師の件は保障出来ないって言ったじゃん!」
抗議の声を上げながら玉郎を睨み付ける帝太郎の頭を、挨拶代わり……と言わんばかりにガシガシと撫でまくる玉郎。
俺じゃなくてお前が猫だ!
無言で帝太郎にそう刷り込んでいるかのように――。
ひとしきりそうした後、玉郎はふとこたつの上で視線を止めた。
「ところでな、帝太郎。そこ、大変な事になってねぇか?」
「え?」
玉郎の指差す先を見て一瞬頭が真っ白になってしまった。
長い事蝋燭に火をつけっぱなしにしていたため、ケーキの上には生クリームを覆うように五つの色が入り混じった極彩色の蝋コーティングが施されていた。
倒れた蝋燭の大半は消火していたが、中には辛うじて数本、炎を宿したままのものもある。
「あーーーーっ!!」
これがおよそ十二年前。二人の出会いの大体の経緯である――。
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