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「俺の弟は親切にしてもらっても、優しい言葉をかけてもらっても気が付かないかもしれない。それに傷ついて腹が立ったりする人も出るかもしれない。
もし、みんなが俺の弟と同じような人を見かけたら、わざとじゃないって分かってやって欲しいんです。俺たち日本人は、人と合わせる習慣を持っていて、違う行動を取ることを嫌います。
でも、弟のような人を、違っていてもいいんだよって、ほんの少しだけ認めてもらえると、兄としてはとても嬉しいです。みんな聞いてくれてありがとう」
頭を下げる大智に、誰からともなく拍手が送られた。それは打ち付けるような音ではなく、両手の中に大切なものを囲うような、心のこもった拍手だった。
「大智君、ありがとう」
理花は思わず叫んでいた。大智はにっこり笑って片手を上げると、先生にお礼を述べて、自分のクラスへと帰っていった。
その日の授業は、みんな一言も無駄口をきかず、珍しいくらいに静まり返っていたけれど、先生は茶化すこともなく、時々黙って、優しい目でみんなの顔を見つめていた。
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