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「みんな、からかわれていると思ったんじゃないかな?でも、これが真実です。そして、この答え方に悪意は少しも入っていません。
俺の弟は、抽象的な質問には答えられません。そして、人の気持ちを汲むことができないので、事実だけを話します。
暗記ものに関してはずば抜けて成績がよく、数字にも強いので、人は彼が負っている障害が分からず、嫌味を言われているとしか思いません。
俺が真似たように表情もかなり乏しいです。となるとどんなことが起きると思いますか?薫子ちゃん、想像してください」
薫子は、ぎゅっと唇をかんだまま何も言わないでいる。
理花も今あてられたら、しゃくりあげてしまうだろうと思った。
理花の頭の中に、誰からも相手にされず、教室で一人ぽつんと孤立する大智似の男の子の姿が浮んだ。人の気持ちを汲むことができないのなら、どうしてその状況に陥ったのかも、自分が敬遠されていることも分からないのかもしれない。
女の子たちの鼻をすする音が聞こえて、余計にやるせない気持ちになった。
大智は、みんなが理解してくれたことを知って、小さくありがとうと呟やき、少し俯き加減で静かに語った。
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