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漫画を描くのを趣味にしている理花は、人間ウォッチングが好きだ。でも、何もない時にじっと見つめると、ガンを付けられているとか、気があるのかと誤解を招くので、みんなの視線を集めている人物を、こっそりと見ることにしている。
そんな時は、先生の言葉なんて頭の上を素通りだ‥‥‥のはずが、先生が発した聞き覚えのある名前が理花を直撃した。
「青木さん。青木理花さん。あとで原稿を取りに来て。少しチェックを入れたから見直して欲しい。臨場感があって良い文章だから、みんなも学校文集に載ったら目を通して欲しい」
「へっ・・・・・・私?」
みんなの視線を一気に集め、理花はうろたえた。
だって、学校文集って一冊の本になってずっと学校に残されるものなんだよ。そんな大それたものに、あの思いっきり感情をはじけさせた文章が載ったら、恥ずかしすぎる。
書き直しますと言うべきか、他の人にと言うべきか、おろおろしていると、横からツンツンと突っつかれ、理花は通路を挟んで座るかわいい女の子に目をやった。
「理花って素敵な名前ね。小説か何か書くの?さっきもメモ帳に何か書いてたでしょ?私もweb小説を書いてるのよろしくね」
理花が描く漫画の主人公のように、目が大きくてかわいい岸野薫子の笑顔にくらりとしながら、こんな地味な自分がよろしくされていいのかと思ったけれど、理花がぎこちなく笑顔を返した時から一年が過ぎても、二人の仲は続くことになった。
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