飯盒炊爨(はんごうすいさん)

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 自分たちがかわいいと思われているとも知らず、二人がこちらに走ってくる。駆け抜けようとした司を呼び止めて、理花は仕事を頼んだ。 「ねぇ、飯盒は男女で組んだ方が効率いいと思うんだ。司君、男子の分も材料切ってあげるから、火を起こしてもらっていい?」 「おっ、ナイスアイディアだね。みんな喜ぶと思う」  一応、理花が同じ班の女子に確認をすると、火を起こしたり、煤で真っ黒になるよりは、野菜を切る方がいいと薫子を含めメンバー全員が賛成をした。  司が班の男子に、お~いと声をかけて、集合を呼びかける横で、真人が感心したように理花に言った。 「理花ちゃん、合理的でいいね。僕たちも女子グループと組めるか聞いて来るよ」  じゃあねと別れを告げて、真人は隣のクラス仲間の元へと戻って行き、司が集まってきた班のメンバーに指示を出した。 「理花ちゃんたちが、カレーの材料切ってくれるってさ。俺たちは、2つ分のかまどの枝拾って、火を焚く準備するぞ~」  司の呼びかけに、男子たちが助かったと喜びの声をあげるのを見て、理花たちの班の女子たちが「かわいい」と言いながら、くすくす笑っている。  でも、笑っている女子を含め、材料を女子が切ると言い出した理花も、普段から家で夕食の準備を手伝っているわけではない。一番当たりたくない玉ねぎを切る人をじゃんけんで決めて、あとは適当にジャガイモやら、ニンジンを剥く担当を決めた。  大きかったじゃがいもが、ぎこちない手つきで肉厚に皮剥きされて、どんどん小さくなっていく。みんな似たり寄ったりで、文句を言う者はいない。  薫子が玉ねぎ切りながら泣いてる。みんなものすごく真剣な顔をしながら、もたもたと不器用に手を動かして、大きなボールを野菜で満たしていった。  でも、緊張感は続かない。ふと包丁から視線を外して隣の子を見ると、タイミングよくバチリと視線があって、お互いのへっぴり腰と、剥いた後の不格好な野菜と、どう見ても皮の方が多いんじゃないかという残骸が目に入り、笑いが上がる。その笑いはみんなに伝染して、お互いに茶化し合ってまた爆笑に変わった。  余分な言葉は要らなくて、青空と新緑と、美味しい空気を身体いっぱいに受け入れて、その場にいる仲間たちと共有することで、わくわく感や、楽しさの波長が、ぴったりと合わさるようだった。
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