飯盒炊爨(はんごうすいさん)

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 途中で薫子と玉ねぎを切るのを交代して、理花も泣いたが、その顔さえも、みんなの笑いの種になる。野菜でいっぱいのボールを持って河原に行くと、男子たちが、拾ってきた木と新聞を交互に積み重ねて、火をつけていた。  炎がゆらゆらと揺らめいて新聞紙の上で踊り始めると、男の子たちがもっと勢い良く燃え上がらせようとして、持っている新聞紙で猛烈に扇ぎだす。 「アホ!そんなに強くやったら、せっかくついた火が消えるだろ!」  司が怒鳴っているけれど、急に風向きが変わって、もうもうと上がった煙が司を襲い、ゲホゲホと咳くのに変わった。  ツ~ンと鼻の奥に突き刺さるような刺激臭がして、野菜の入ったボールを持ってきた理花たちも、ゲホゲホと咳いて、袖で鼻を覆う。  大智が走ってきて、落ちていた長い枝を拾い、かまどの中に突っ込んで、山と積まれた枝を掻き出した。 「乗せ過ぎだ。ごはんが真っ黒こげになるぞ。このくらいでいいから、飯盒こっちに渡して」  大智が司から受け取った飯盒の取っ手に横棒を通し、コの字型に高く積み上げられたブロックのかまどの両側に渡す。飯盒は中ほどまでを覆う丁度良い加減の炎にくべられた。男子たちからヤルな~!という歓声が上がり、称賛の目が大智君に向けられる。司も感心した顔を大智に向けて、ポンと肩を叩きながら礼を言った。 「大智、ありがとうな。カレーライスなのに、カレーだけになるところだった」 「ああ、いいよ。こういうの慣れてるから。分からないことがあったら、呼んでくれ」 「おう、助かる」  司に手を振って、自分の班へと戻っていく大智の後ろ姿は、頼りになる男と言う感じがして、あまりのカッコ良さに理花は目が離せないでいた。  ああいうのをサバイバル術っていうのだろうか。自然の中でさっと行動できる男子って、女子にとっては堪らない存在なんじゃないだろうかと気になって回りを見回すと、周囲の女の子が理花と同じようにぼ~ッとした表情で大智の背中を見送っている。薫子もとろけるような顔も目に入り、心臓がドクンと強く脈打って、理花は不安を覚えた。  あ~、だめだめ。今はやることを先にやる!理花は頭を振って雑念を払うと、班のメンバーに声をかけた。 「私たちも、お肉と野菜とお水とコンソメを飯盒に入れて、火にかけてもらおうね」  理花の声で、止まっていた女子たちが我に返り、一斉に動き出す。  さっき起こったことなんて、もうみんなの頭から消えてしまったように、こっちの飯盒の肉が少し足りないだの、ジャガイモが多すぎるだので揉めて、ハチの巣をつついたように大騒ぎをした。
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