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山の日の入りは早い。5時になるともう辺りが暗くなってくる。
ジャージから忍び込む空気が、とたんに冷たくなったように感じるけれど、ゴトゴト、グツグツ音を立てて煮えたぎる飯盒に集中している理花たちにとっては、些細なことだ。
みんなの真剣な表情を、かまどの火が明々と照らしていた。
「そろそろかな?」
お米の煮え滾る音がしなくなってしばらく経ったころ、司たちが、飯盒の取っ手をくぐらせてかまどのブロックにかけてあった横棒を持ち上げて、火から下ろす。真っ黒な煤で汚れた飯盒が、底を上にした状態で新聞紙の上に置かれると、中のご飯を飯盒から出しやすくするために、枝を握って待機していたみんなが、期待を込めてバンバン叩く。
そして、再び飯盒をひっくり返して置き直し、蓋を外した途端、熱い水蒸気が立ち上り、まっしろなご飯が現れた。
「わ~っ、美味しそう!」
「ふっくらご飯が炊けたぞ!これはうまそうだ」
食べ盛りの男女の歓声が一斉に上がった。
今度はカレーの番だとみんなが野菜を煮ている飯盒に注目する。理花たちがカレーのルーを入れてかき回すと、すきっ腹を刺激するような、いい香りが辺りに漂った。
盛り付けたカレーは、不ぞろいの野菜だらけで、見た目は決して良くないけれど、口に入れたときに、「こんな美味しいカレー食べたことない!」と誰も
が感動したくらいに美味しくできていた。
「外で食べるもんは、なんだってうまいんだってよ」
誰かが知識をひけらかして、ぶち壊すようなことを言ったけれど、美味しいものに何の理由づけも要りはしない。みんなの胃は正直で、飯盒はきれいにカラになった。
果物も飲み物も、丁度いい冷え具合で、みんなの口に上るのは、ただ「美味しいね」「うん」の応酬だ。
理花も笑顔で応えながら、大智がここにいて、理花たちが作ったものを一緒に食べてくれたら、もっと幸せだったのにと、ほんの少し寂しくて残念な気持ちになった。
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