写真撮影

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 この際、苦手だとか関係ない。こんなにかっこいい人に恥をかかせてはいけないと、理花は必死で思ったことを告げた。  途中から、顔中が熱くなって、恥ずかしさで涙目になりながらも言い終えると、瀬尾は理花を見つめ、腕を上げたままで固まってる。    分かってくれたかどうか確かめるために、顔を覗き込もうとしたら、瀬尾が腕を外し、わずかに背をそらして距離を取った。  そんな、避けなくてもいいのにと思ったけれど、瀬尾の耳が赤く染まっているのが目に入り、一体どうしたんだろうと、今度は理花の方が首を傾げる番だった。  薫子がそんな二人を見比べて、苛ついた様子で口をはさむ。 「理花は、台本を書かなくっちゃいけないから、女優との駆け持ちは無理よ。だって、作文と物語を書くのって違うのよ。まして、背景や人物の動きを全部考えながら、セリフを続ける物語を作らなくっちゃいけないんでしょ?荷が重すぎると思うわ」  薫子の言葉を聞いた時、理花は複雑な気持ちになった。  普段なら、無理難題を押し付けられなくて済むように、薫子が理花のために予防線を引いてくれたと思って、感謝していたに違いない。  今日に限って素直に受け止められないのはどうしてだろう?  感謝どころか、瀬尾の前で能力がないみたいなことを言わないで欲しいと、薫子に対して小さな反抗心までが芽生えた。  元々文章より漫画を描くのが好きな理花は、セリフでストーリーを進めるのに慣れているから、小説を書くよりも台本の方が向いているのではないかとふと思い当たったせいもある。  瀬尾や映研の人たちが読んで笑うほど、薫子の書く物語は面白いのかもしれないけれど、それだって、理花を主人公にして書いたからウケたわけで、自分だって、その気になれば薫子に負けないものが書けるかもしれない。 「理花?」  理花が黙り込んでしまったのを心配して、薫子が名前を呼んだ。言い過ぎたと思ったのか、気まずそうな表情をしている。その顔を見た途端、理花も心の中で薫子に対抗意識を燃やしていたことに気が付き、茫然とした。
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