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『聖剣を求めて』
俺には前世の記憶がある。
そして、困った事にもうすぐ魔王が復活する。
その為に、転生者が来るはずだったが、現地人の俺が自我で勝ってしまったようだ。
俺に残されているのは転生する予定だった奴の記憶とハーレムを作るという信念だけだ。
田舎から旅立ってハーレムを作るべくウッキウキで王都まで来たのだが、強制的に連行され、王様の前に突き出されるやいなや、気づけば聖剣を抜かねばならない話になったようだ。
「さぁ、若者よ! 聖剣を抜いて勇者となるのだ!」
未だ聖剣を抜き、王様に勇者であることを証明出来たものは居ないらしい。
だから、王都に来た若者は全員この洗礼を受けるようだ。
だが、一つ閃いた事がある。
勇者になればきっとモテるんじゃないかと。
淡い期待を抱きながら聖剣が眠っていると言われる森へと俺は赴いた。
いつどこで魔物が飛び出してくるかわからない程、木々が生い茂り、警戒を解くことが出来ない。
「地図だとこの辺の祠だと思うのだが……」
大雑把な地図を見ながら独り言を喋るが、見つからず埒が明かない。
俺は自分の勘を信じて地図とは違う方向へと進んで行った。
「あの岩は……?」
今までの森と違い、開けた場所を見つけることが出来た。
まるでそこだけ空間を切り取られているかのように周りとは流れが違う。
そして中央にある大きな岩が存在を強調しているように置いてあり、その上には聖剣が置かれ……あれ? なんかオーラ凄くない!?
「ってこれ傘!?」
大きな岩に刺さっているのが聖剣では無く、前の世界でよく見かけたビニール傘である事に、つい驚いて声を荒らげてしまった。
「グゴゴゴゴ」
謎の効果音が辺り一面に流れる。
「我の眠りを妨げた者はお主か……?」
「傘が喋った!?」
効果音が流れた後、物凄く渋い声がエコーする様に聞こえて来る。
「むぅ、うるさいのぉ……寝起きは耳が弱いんじゃ、もっと小さく喋ってくれんかのぉ?」
「す、すみません……、では……ごにょごにょ」
俺は注意された通り小さな声で聖剣? さんに話しかけた。
「小さすぎて聞こえんわ! 馬鹿にしてんのか? おぉん!?」
「理不尽……!!」
あまりの理不尽さに思わず俺の語彙力が旅に出た。
いや、もしかしたら本当に聖剣かもしれない。
ここで諦めたから、過去の挑戦者は勇者になれなかったはずだ!
俺は……そいつらとは違うんだぜ……!
「あのぉ……聖剣様? でアッテマスヨネ?」
「おーん? 最近耳が遠くてのォ」
「いやぁ……もう素敵なフォルムに渋い声! ファンになってしまいそうですぅー!」
褒める。褒める。褒め言葉の大盤振る舞いだ。
機嫌を損ねては意味が無い。
「フォッフォフォ、分かってくれるのかね? なかなか良いセンス持ってるんじゃあないの?」
「素晴らしすぎるんですよォ」
あと一押しだ……!
「ふふふ、我もなんだか、気分が良くなってきたのぉ……久しぶりに抜いてみちゃう?」
「よろしいのですか!」
「我は構わんよ、優しくな?」
とうとう俺が勇者としてもてはやされ、ハーレムを作る第一歩だ!
俺が聖剣を引っ張るとスルスルっと流れるように岩から引き抜くことが出来た。
「良くぞ、我を抜いたな、若人よ。
我の名は魔剣エクスカサーだ。これでお主の未来も安泰よのぉ」
「ははっ! ありがとうございま……魔剣!?」
「ふははは! 我は魔剣ぞ?」
「聖剣じゃ……?」
「まぁまぁ、細かい事は気にするでない! 王都に着いたら我を起こすんじゃぞ?」
もうこうなったら魔剣でも聖剣でも何でもいい!
俺はハーレムを作るぞ……!
そして、俺と魔剣エクスカサーは王都へと向かった。
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