『腹が減っては戦ができぬ』

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『腹が減っては戦ができぬ』

   森の奥の方で魔剣さんと出会ったせいでお城までは3時間ほどかかるだろう。  お城の奥にそびえ立つ大きな山を頼りに森を歩いた。 「あのぉ、魔剣さん……?」 「グゴゴゴゴ」 「魔剣様?」 「なんじゃい?」  く、様呼びじゃないと反応しないのか!  なんてやつだ。  魔剣って言われてるようだけど、一度も聞いたことの無い名前だ。  ひょっとして弱いんじゃないか……? 「あのぉ、魔剣様はどのくらい強いのですか?」 「そうだのぉ、魔王ぐらいならワンパンじゃわい」  カァーー! 嘘くせぇ!  嘘の匂いがプンプンするぜ!  魔王ワンパンってありえないだろ……!? 「そういやぁ、お前の名前はなんて言うんじゃ?」 「ヤマダ・タロウです」 「そうか、ヤマダと言うのか、プククク」 「いや、なんで笑うんですか……?」  ――ポツリ  ――ポツリ  先程まで絵の具のように青かった空が次第と薄暗くなり、涙を流すように雨が滴り落ちてきた。 「やべ、雨ですね、魔剣様! 傘として使ってもいいですか?」 「うむ! 我は構わんぞ! だが、今攻撃モードだから、我がモードを変えるまで――」  俺は魔剣さんがなにか喋っているのを聞こうとしたが、習慣というのは怖い。  話を聞きながらいつも傘を使うように魔剣様を開けてしまったのだ。  バサッ 「え?」  ズギュウゥゥゥゥゥーーーン!  魔剣さんを開いた瞬間、前方にビームのような、いや、もはやあれは波動砲だ。  波動砲のようなものが発射され、目印にしていた大きな山が三日月形に形を変えてしまった。 「え? えええ、ええええー!?!?」 「じゃから、話を聞けと……」 「ご、ごめんなさい!?」 「次からは気をつけるのじゃぞ?」 「はい……」  魔剣さんにはモードというのがあるらしい。  ほとんどの力を失っているが、今使えるのが攻撃モードと傘モードだ。 「ヤマダ! 我は腹が減ったぞ」 「この辺に魔物がいるか探してきます!」  俺は魔剣さんの食料を探すために、この辺に生息している魔物を一緒に探すことになった。  ――カサカサッ  ――カサカサカサッ 「む、蜘蛛の魔物……! 魔剣様、戦いましょう!」  近くに現れたのは俺の体の倍程ある真っ黒な蜘蛛だ。  まだこちらには気づいていない。 「うむ、あれは、『ががぎぎぐも』じゃな」 「え、名前適当すぎじゃないですか?」 「うむ、適当に考えたらしいからの」 「どこ情報!?」  俺は魔剣様を中段で構え、右足から踏み込んで蜘蛛との距離を詰めた。 「シャー!」  蜘蛛が俺に気付き、威嚇をしてくる。  だが、もう魔剣さんが届く距離に達している。  中段から蜘蛛の頭目掛けて勢いよく振り下ろした。 「グギャー! グググ、バタンキュー」 「どんな断末魔だよ……」  俺は蜘蛛の素材を採取するべく、解体を始めることにした。 「ヤマダよ、ちと、蜘蛛の素材を傘の隙間に入れてくれんかの」 「こう……ですか?」 「あんっ」 「変な声出さないでください」 「すまんすまん、よし、モードチェンジ!」  傘の8本ある骨組みがぐにゃりと変わり、蜘蛛の脚のように広がった。 「自立モード『まけんぐも』じゃ」 「いや、名前がアウトですよ……ポ〇モンかよ」 「ダメなのか?」 「ダメですね」 「むぅ、仕方ないのぉ、なら自立モードだけで我慢するわい」  魔剣さんは寂しそうにこちらに近づくと、通常モードへと戻っていった。 「てか、魔剣様なんでもありなんですね……?」 「うむ、息抜きで書いてるからの」 「なんの話!?」 「まぁまぁ、細かい事は気にするでない」  そして、俺と魔剣さんは無事に森を抜けることが出来た。
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