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恐ろしい罠
「うわぁ!!!」
僕は叫んで、スマホをカーペットの上に落としてしまった。
いま見たものが信じられなかった。慌てて拾い直したスマホの画面には、まだその写真が写っていた。
顔だった。アイの顔のアップ。いつもの健康そうな肌が真っ白で、頬に殴られたようなアザが浮かんでいた。
目の焦点がまったく合っていない。恐ろしいことに、口の端から真っ赤な血が溢れ出ていた。
「アイ!!」
聞こえないと分かっていても、僕は叫んでいた。他のやつらも同じに違いない。
再びブブー、ブブーっというバイブと通知音。
――――――
(あ異) 『……ニ、ゲ、テ……トシ……カズ……ミンナ……ダメ……ヘンジ……シチャ……』
――――――
それが、僕らが見たアイの最後の返信だった。
――――――
(トシカズ)『わあ!! また来た!! 今度は僕に直接、あのメッセージが来たよ!!』
――――――
驚愕している暇もない。うろたえるトシカズのメッセージが、悲鳴のように流れてきた。
――――――
(マリア) 『トシカズ! パニックにならないで!』
(一夜) 『おい! なんかそいつやばいよ! 第一、誰が送ってきたんだよ? アイか?』
(トシカズ)『……シニ……ガミ!! シニガミだ! 名前に死神ってかいてあるうよuu!』
――――――
これには僕も混乱した。理由は簡単で、そんな不気味な名前のメンバーは、もちろんこのグループにいないからだった。
何か裏の方法でもあるのだろうか?
僕は眠っていたMocBookを叩き起こすと、Geegloの検索窓に『死神』と入れてみた。
カマを持った黒服・骸骨男のイメージが表示される。けれど不気味なやつからメッセージが来たとか、そういう情報はない。
けれど逆に、どこにもニュースが載っていないからこそ、ゾクゾクするリアルな怖さがあった。
またバイブが鳴る。
あ……しまった! 僕は焦った。ついトシカズの様子から目を離してしまった。
アイは変なメッセージが届いてからすぐに、おかしな事を言い始めたんだ! トシカズは?
――――――
(トシカズ)『あれ……何ともないみたい。何も起こらない』
(一夜) 『え……平気なのか? おいおい、アイは何だったんだよ! あいつ無事なのか?』
(マリア) 『良かった! トシカズ、落ち着いてね! アイの家には私から電話を入れて見るから』
(トシカズ)『うん……怖がることなかった。びっくりし過ぎだよね。はは』
――――――
そう言って、トシカズはスタンプを送ってきた。文字じゃないそれを送るぐらい余裕が出てきたのだろうと、僕はホッとした。
けれどそのスタンプを見た時、僕は一瞬で無表情になった。
猫娘だった。ゾンビ風の青白い顔をして、猫耳のある娘のスタンプ。
そのイラストは吹き出し付きで、そこに台詞が書いてあった。
『ぞんびーにゃ! 私かまってちゃんなの。返事して欲しいにゃ!』
僕はぎょっとした。背筋に電気が走って、体中に鳥肌が立った。
おかしい! 何かが間違ってると、体が反応している!!
考えろ、タイチ! おかしいのはどこなんだ?
心の中の冷静な僕が笑いかける。解るだろう? お前は頭がいい。だから答えに気づいているはずさ。
ヒントは『イチヤ』だ。
そうだ! 違和感の正体はそれだった。イチヤのだ。イチヤのお気に入りのスタンプなんだ!
だからおかしいと気づいた。
ゾンビ猫娘のスタンプを、トシカズが使うわけがないじゃないか!
見た目は違っても、アイのドクロのスタンプに感じたものと同じ恐怖の既視感。
その瞬間に悟った。
やばいって!
罠だ! それが罠なんだ!!!
僕は気づいた。そして他のやつは、たぶん気づいていない!! マリアさえも、分かってないに違いない。
危ない! 返事をしちゃ駄目だ!!
僕は慌てて警告の一文を打とうと、メッセージの入力枠をタップした。カーソルが点滅し、指が動くのを待っている。
けれど、そこから指先を動かせなかった。
「駄目なんだ……」
僕はもう二度と、こいつらを信じないし、助けないって決めたんだ。
頑なに、何言っているんだと思うかもしれない。
でも、そうじゃなければ、ここに閉じこもってる意味なんて無いし、連絡を許してしまったら、黙ってここまで見ていた僕が、惨めじゃないか!
でも……いま警告をしないと……。
もう少しだけ時間があったら、僕の指先は動いていたかもしれない。その迷いは一分もなかったと思う。けれどそれが友人の――イチヤの命取りになってしまった。
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