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孤独の世界
部屋は暖かく涼しく快適で、外の世界には直接つながっていない。安全だ。だから僕は、もう一生ここから出ないと決めた。
引きこもって直ぐは、父や母が僕を引っ張り出そうと試みたけれど、やがて静かになった。諦めたんだろう。
他にも祖父や祖母、学校からは担任まで来たようだ(部屋の中だから良くわからない)。
けれど誰も、僕を外に出すことには成功していない。
僕の元仲間たちのうち、トシカズとイチヤだけは家に来たと両親が教えてくれた。
けれど友人は全員追い返してと両親に伝えていたから、二人とも二階までは上がってきていないと思う。
ずっと家にいてつまらないかと言えば、そうでもない。ここと外とを繋ぐ手段は、いくらでもある(家のWiFiとスマホの回線だけは切られていなかったから)。
それでも余計なつながりは全部切ってしまおうと、連絡先は消しまくった。タップして、スワイプして最後に残ったのが、あの四人の連絡先とメッセージ・グループだった。
それまで軽快だった指が、ピタリと止まってしまう。人差し指を『グループから脱退』のボタンの上に載せるだけ。それだけが、やたらと重い。
六年。マリアだけは保育園の分もあるけれど、その歳月×四人分が計算できない重量になって、指に絡みついてくるんだ。
結局、僕はその時に消すのは諦めた。そんなに頑張っていま消さなくてもいいや。
残っていたって、僕からこいつらにメッセージを送ることは二度と無いから関係ないし。
引きこもってしばらくは、この四人のグループにもたくさんメッセージが来ていた。けれど全部無視して読まなかった。
動画サイトもキャスも見飽きて、余った時間ができた。その時に、ベッドの上で既読にもせず、まとめて消してやった。
そのうち僕のスマホは、バイブとか着信のサインが全く点かなくなった。
やった。完全なる拒絶に成功した。
もう僕の事を知っている人と関わらなくていいんだ。知っているつもりの人たちとだけ、楽しくやろう。嫌ならいつでも関係ごと、切っちゃえばいい。
僕はとても満足した気分になった。
食事をした直後という事もあって、眠気が襲ってきた。僕はこの完璧な世界の中で、自分の意思で微睡んでいった。そしてついには床で仰向けに眠ってしまった。
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