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壊れていく少女
僕は倒しかけた体をばっと起こした。その画像を開いて、拡大して見る。
鮮血を浸して書いたような真っ赤な文字が、凶暴にのたうっていた。次の獲物を見つけた喜びに、体をくねらせるみたいに。
雪谷を……く、喰っただって? 嘘だろ……しかも名指しで、アイの事が書いてあるぞ!
次の狙いがアイで、確実に『喰う』事を予告してるって事だ
――――――
(あい) 『え、え? 嘘……イヤだ! 私……ゴメン。雪谷くんと繋がってたの……それで《だいじょぶ?》て聞いただけなんだよ? そしたらこれ送られてきた……怖いよ、怖いよ、みんな!!』
(マリア) 『落ち着いて! なんにもないよ! ただのイタズラとかに決まってるから』
(トシカズ)『そうだよ、そうだよ。アイ、僕たちがいるからね!』
(一夜) 『でもさ、なんかすげえリアルだよな……』
(マリア・トシカズ)『イチヤ!!』
(あい) 『ねえ、どうしたらいい? どうしたらいい!? 怖い怖い怖い!!』
――――――
パニックになったアイは、もう感情に溺れている。誰の問いかけにも反応せず、怖いを連投するしか出来ていなかった。
だがそれが、パタリと止む。
不気味な静寂に、僕は唾を呑み込んだ。たぶん他のやつらもそうだろう。
その中で、最も勇気のあるマリアがアイに呼び掛ける。
――――――
(マリア) 『アイ……ねえ?』
(あい) 『……わ……』
(マリア) 『わ?』
(あい) 『わ……わ……わ……』
――――――
奇妙な繰り返しの「わ」。まさか恐怖のあまり、壊れてしまったわけじゃないよな……アイのやつ。
――――――
(マリア) 『わからないよ? 何が言いたいの?』
(あい) 『……わ……た……』
(マリア) 『わ・た? わたって何?』
(あい) 『……わ……た……し……の……こ……と……』
――――――
何かの文を伝えたいのか。その奇妙なつぶやきに、マリアすら沈黙してしまう。
――――――
(あい) 『わたしのこと……きにかけてくれるの だあれ?』
――――――
童謡のような言葉。普段から子供っぽいアイなら書きかねないけれど、今は不気味でしか無い。
――――――
(あい) 『わたしのこと……きにかけてくれるの だあれだ? ねえ、はなしかけてくれないの?』
――――――
全文ひらがなの誘い。怖い。そう言われると、逆に誰も指を動かそうとしない。
アイを本気で心配しているトシカズが、恐怖に打ち勝って、メッセージを送ってきた。
――――――
(トシカズ)『アイ……どうしたんだよ。みんな気にかけてるじゃないか』
――――――
その言葉が契機となった。
予告なしに、スタンプがひとつ送られてきた。
それはドクロだった。口から血を流している不気味な骸骨。
そんな物は百パーセント、アイが持っていないはずの絵柄だった。アイコンの横に「アイ」の名前があるのが信じられない。
ひとつ、ひとつと繰り返し送信されるスタンプのドクロ。それは速度と数を増していく。
やがて下から上に流れる洪水のようになった。誰もメッセージを挟むことが出来ない。
スマホが壊れる! 皆がそう思った。その刹那、ピタッとスタンプの連打が止まった。
――――――
(あい) 『は、は、は、はなしかけてくれて、ありがとう。みーつけた。つぎは、ア・ナ・タ♪』
――――――
そのメッセージに覆いかぶさるように、送られてきた写真が――。
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