引きこもりの生活

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引きこもりの生活

 コン、コン、コン。  ノックの音がする。 「タイチ、ご飯できたわよ」  母親の声だ。もうだいぶ諦めているみたいで、それ以上は言ってこない。  カチャカチャと音がして、最後にもう一度ノック。それは、用意された御飯が扉の脇に置かれた合図だった。  そう、僕はもう一週間近く、この部屋から外に出ていない。  どうしても必要なトイレとお風呂は別だけど、それ以外は扉に鍵をかけたまま。  学校にだって行っていない。  理由は簡単。無理だから。  あんな扱いを受けた僕は、朝ベッドから起きられない。  自転車にだって乗れないし、踏切の向こうになんて渡れない。  校門をくぐるのは苦痛だし、ましてや、あの四人たちがいる校舎になんて、入れるわけ(・・)がない。  階段を降りる母親の足音が小さくなるまで待ってから、僕はベッドから起き出す。  ぼさぼさの頭は寝癖で変形していて、かなりみっともない。  靴下も履かない足で部屋のドアまで歩く。途中、部屋に転がった、邪魔なサッカーボールを蹴ってどかした。  ノブを握ったまま、鍵を外す。  ゆっくりと隙間だけ開けて、外を見る。  誰もいないのを確認したら、肩幅まで開いた扉から身を乗り出し、食事を回収してまた、カチャリ。  机代わりの手作りの椅子――学校の授業で組み立てたもの――をテーブルにして、そこにお盆を置いた。  ノートパソコンの蓋を開いて、動画チャンネルのリストから、お気に入りのアニメを選び出し、再生する。  その場にあぐらをかいて食事を摂る。部屋はひとつしか灯りを付けていなから、薄暗い。  僕の顔は液晶の光に映し出されて青白く、さぞかし不健康に見えるだろう。
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