事件・罪ナレバ……

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事件・罪ナレバ……

 日が沈む。空に白さが残る。黄金色に縁取られた橙色に嫉妬。濃藍色が追いかける。  明かりが欲しくなる室内。リエルゼ夫妻は、家の戸締まりを確認する。玄関を出て、鍵を掛けた。まだ、外は明るい。住宅街を歩き出す。ポツリ、ポツリと家々に明かりが点っていく。  道上に掲げられた商店街と記された看板。くぐれば、書き入れ時を迎えると判る。夕食や翌日と朝食の買い物客でごった返す。道の両側に並ぶ小さい店。店員たちが声を張り上げて、呼び込みを競い合う。  賑わいに、浮き立つ心を抑える。リエルゼ夫妻は各店を覗く。目移りするほど種類が豊富。見栄えする商品に惹かれて、店に近づく。香ばしい匂いに、おなかが空く。店員と交わす会話が弾む。満面の笑み。理由を訊かれた。 「入院している娘の外出許可が、やっと、取れたのです」  声を揃えて、リエルゼ夫妻は答えた。家族で過ごすために、家も借りた。話題は続けられない。真顔になった店員から、名前を尋ねられる。聞くと、哀れみとも、同情ともとれる表情に変わった。訊いても、言葉をにごす。周りの目を気にしているように見えた。誰なのか、容易に想像がつく。  リエルゼ夫妻に、不安が芽生える。病院の方を向く。娘は無事か?
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