【第一部】 ──青年──

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「うん、そうだね。割り勘でいいか。 じゃ、クレープに関しては割り勘で」 そして、納得したらしくマコトは自分に言い聞かせるように述べると、バッグから取り出したスマートフォンでくだりのクレープ屋を検索し始めた。 「うん、あった。さっきの公園の出口の近く。 で、クレープ食べ終わったら、あの開場を待ってる行列に並ぶ。 それでいいかな?」 ライブハウスの前は、開場まで3時間があるというのに、既に100人程の行列が出来ていた。 「うん、それでいいよ」 僕は頷くと、マコトと共にライブハウスを後にし、先程待ち合わせ場所として用いていた市民公園に再び歩を向けた。 ──なんで、そんな必要以上に「おごる」とか言うんだろう。 クレープ屋に向かって歩いている間、僕はマコトがこの10数分の間に行った挙動や発言が気になって仕方がなかった。 僕とマコトの関係は、あくまで「ネット上での友達」である。 幼少期を共に過ごした「竹馬の友」という訳でもなく、いとこなどといった血縁関係も、言うまでもなくマコトとの間には一切無い。 リアルでマコトと言葉を交わしたのは今日が初めてであり、確かにTwitter上でのやり取りは面白いが 「文字だけの会話」 のみしか行っていない相手に対して、必要以上に「おごる」といったマコトの言動や行動は、他人の靴を間違えて履いてしまったかのような奇妙な違和感を僕に抱かせていた。 この時の僕は、マコトのこれらの行動を単なる「コミュニケーション下手」として解釈していた。 しかし、そうではなかった。 時間が幾年も過ぎ、ある程度事情の分かった今だから言える。 当時のマコトは、そうせざるを得なかったのだ。 そして、まだ若かった僕は、この時マコトが抱え込んでいたコールタールのようなドス黒い心の闇を、そのカケラさえも推し量る事が出来なかったのだ。
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