●タクヤ、お酒買ってきてよ

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「家族が全員揃う事とか、殆どなかったし。 親父はずっと、パチスロに狂っていたしさ。 で、たまに家族が揃ったとしても、みんな妹ばっかり可愛がって、私の事なんか完全無視だよ。 ママとかも、『アンタのその無愛想なトコロは誰に似たんだろね』とか、平気で言ってくるし、結局私なんか世の中にとって『いらない子』なんだよ。 で、たまに言い寄ってくる奴とかいたとしても、私が『女だから』って理由で言い寄ってくるクズばっかりだしね」 淡々と語られるマコトの重苦しい吐露に、僕は言葉を返す事が出来ず、黙り込んでいた。 エレベーターのドアが開いた。 僕はマコトと共にエレベーターに乗り込むと、展望浴場のある29階のボタンを押す。 「……だから、Twitterでは『女』っていうのを意識して欲しくない為に、男を演じていたって訳?」 エレベーターが下降している間、僕は先程踏んだ地雷を避けるように、おそるおそるマコトに対して切り出す。 その僕の問い掛けに、マコトは「うん、そう」と小さく頷くのみで、それ以上語ろうとはしなかった。 エレベーターが、29階に到着した。 扉が開き、僕らはエレベーターを出ると、案内に沿って展望浴場へと向かって歩を進めていく。 「……米倉さんの話をしよう」 下手な慰めも、過去を掘り下げて訊くのも逆効果にしかならないと思った僕は、たまりかねて二人の共通の話題である「米倉翔吾」を会話の潤滑油として持ち出した。 「今日の『米倉×菅』みたいに、明日の米倉さんのステージでも、米倉さん。 サプライズとして新曲を歌ってくれるかもしんねえじゃねえか。 マコトが何でそんな塞ぎ込んでんのか俺には分かんねぇけど、楽しい事を考えていったら嫌な事もいずれ忘れていくよ」 「ドアの向こうで、私が電話で誰かとやり合ってたの、聞いてたんでしょ?」 マコトは冷ややかな視線を、僕に対して向けた。 僕は「えっ?」と言葉を詰まらせたまま、次の句を述べる事が出来なかった。 「タクヤは、嘘が下手だね」 マコトは蔑むように口元を曲げながら述べると、僕を置き去りにするようにスタスタと通路を早歩きしていき、展望浴場へと歩を進めていった。
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