【第一部】 ──青年──

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「いい、いい。 ストラップくらいなら、おごってあげるから」 すると、マコトは左手の掌を突き出す事で、僕のその動きを制した。 「たかが、800円くらいなんだしさ。 ストラップくらいは、大人しくおごってもらっておきなよ。 それに私、さっきも言ったようにお金ならそれなりにあるから。 別に、タクヤがそんな気にする事はないんだよ、ホント」 「……じゃ、ゴメン。おごってもらっておくわ」 僕はマコトに対して小さく頭を下げると、もらったストラップを無造作にカーゴパンツのポケットへと入れた。 「まっ、タクヤには今回来てくれた件とか、Twitterで面白おかしくやり取りしてもらったりとか、色々お世話になってるからね。 ストラップくらいなら、おごってもいいかな、って思ってたんだよ」 「まぁ、そういう事なら……」 僕は、今日何回目であるか分からない愛想笑いを浮かばせると、マコトと二人でグッズ売場を後にし、しばらくライブハウス周辺を徘徊する。 「確か、この近くにクレープ屋さんがあるらしいんだよね……」 マコトはキョロキョロと辺りを見回しながら、先程口にしたクレープ屋を探す。 「へぇ」 「良かったら、クレープ食べない? まだ、開場まで時間はあるしさ。 私、おごるから」 「いや、待ってよ。待って」 マコトの言動に違和感を覚えた僕は、苦笑交じりに突っ込みを入れる。 「もう、割り勘でいいじゃない。 そんな、何でもかんでもおごってくれなくてもいいよ。 いくら俺が、今月そんな持ち合わせが無い、っていっても、さすがにクレープを食うくらいの金ならあるからさ」 「あっ、割り勘ね……」 すると、僕の言葉が想像の範囲外であったのか、マコトは即答せず顎に手をあて、そのまま思考へと入った。
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