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「男なんて皆、こっちの気を惹こうと思って適当にいい事を言うけど、いざこっちが振り向いたら途端に手のひら返す生き物なんだから」
マコトは白けた声で独白するように言うと、ゆっくりと車窓から僕に視線を移した。
「タクヤも、私から離れていくんでしょ?
昨日、あんな事があったし」
「いや、俺は……」
昨日のなまめかしいマコトの姿が脳裏をよぎったが、僕はかぶりを振る事でそれを取り払い、マコトを見据えながら言葉を続けていく。
「昨日も言ったじゃねえかよ。
マコトとは、『このままでいたい』ってよ。
昨日は確かに、おかしな事があったよ。
でもよ、アレはアレ、って感じでお互いまた友達として付き合っていこうよ。
二人で温泉に行きたい、ってマコトも言ってたんだしよ」
「……そんな事も言ってたね、私」
マコトは、ふぅ、とため息をついた。
そして、再び車窓に視線を戻すと、マコトはため息を続けて吐きながら、車窓の向こうに流れる掛川の景色を見つめていた。
「……ゴメン」
が、数分後。
込み上げる涙でもこらえているのか、マコトは車窓を見つめたままながら、震え声で言葉を述べていった。
「何か、変な空気にさせちゃってさ……。
でもね、あの時の私。
ああするしか、出来なかったの……。
タクヤは、私が作ったその流れに応えただけだよね……。
何一つ、悪くないよ。
謝るのは、完全に私だよ……。
私がもっとしっかりしていれば、あんな事にはならなかったんだしさ」
僕は言葉を返す事が出来ず、車窓に映るマコトの顔をただ見つめるのみである。
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